「自由」という言葉を禅宗の僧侶たちはよく使います。僧侶は、妻子や友人などの人間関係を捨て財産や社会的地位を投げ捨て、実社会を離脱して山に籠るのが本来のありかたです。今の僧侶は街中で家族と暮らしているので、実質的に出家していませんが、建前としては、実社会から離れているべきです。
僧侶は山の中であらゆる人間関係を断ち切っているはずなので、人間関係や社会に対して配慮をする必要がありません。自分の思い通りに好き勝手に振舞う解放された気持ちを「自由」と言います。つまり集団の規律を無視するのが、「自由」という仏教用語の意味なのです。
軍隊は規律を守ることで成り立っており、上官の命令には絶対に服従しなければなりません。上官の命令に服従することとFreedomは矛盾しません。Freedomは社会的ルールに従うことを原則にしています。ただし、隣人を助けるためにやむを得ない場合に限って社会的ルールを破ってもよい、とするだけです。
ところが自由という仏教用語は、自分の思い通りに勝手気ままに振舞ってもよい、という考え方なので、軍隊の存立を脅かす危険思想です。日本の軍人たちは、本来のFreedomの考え方がいかなるものかを知らず、自由とは勝手気ままに振舞うことだと思って、自由主義を毛嫌いし危険視しました。
その点社会主義は、上からの命令に服従するということを強調するので、軍人たちの発想に合致する考え方です。共産党党員などマルクス系の社会主義者は天皇陛下の存在を否定するので、さすがの軍人も彼らを容認しませんでした。しかし、獄中で転向し天皇陛下に忠誠を誓う社会主義者たちに対しては、非常に寛容でした。
自由というのがFreedomの訳語とされていたので、軍人たちはFreedomも自由と同じように鼻持ちならない思想だと誤解しました。そしてFreedomを国家の大原則とするイギリスとアメリカをも敵だと考えたのです。
軍人たちは自由主義を排斥し社会主義を主張し、さらにアメリカとイギリスを敵視しましたが、その背景にはFreedomを自由と誤訳したことがありました。
以下はひと続きのシリーズです。
4月4日 右翼・左翼という言葉を使うと、現実が分からなくなる
4月16日 アメリカが石油を禁輸したから戦争になった、というのは説明になっていない
4月21日 ソ連の工作機関が、アメリカを戦争に誘導していった
5月5日 金本位制復帰も、日本が社会主義化する大きな要因だった
5月9日 反乱を起こした青年将校は、社会主義者を指導者に仰いでいた
5月21日 日本共産党員も獄中転向し、非マルクス系の社会主義者になった
5月23日 天皇制を認めれば、社会主義を信奉してもOKになった
5月30日 ソ連のスパイの尾崎秀実は、支那事変拡大を煽り立てた
6月13日 憲法が規定する自由主義の原則を、国の役所が否定した
6月18日 軍国主義者や右翼が悪い、というのは説明になっていない
6月23日 昭和初期の日本の経済には、社会主義化するような必然性はなかった
6月27日 日本が社会主義化した大きな原因は、Freedomが輸入品だったこと