前回、社会主義体制とは「政府が市場経済に介入する体制」のことだ、ということを書きました。工場や企業などの生産手段を国有化することは、社会主義の絶対条件ではありません。企業を私有にしたままでも、政府が企業に命令すれば、市場を統制するという社会主義の目的は達成できます。
大東亜戦争が始まる少し前から戦後しばらくの間の日本では、石油などのエネルギーや鉄などの重要な資源をどの会社にどのぐらい供給するかを政府が決めていました。原料の供給を握られているので、企業は政府の指示通りに製品を作るしかありませんでした。紙をどの新聞社に売るのかも政府が決めていたので、新聞社は政府の嫌がる報道をすることができませんでした。戦争中は日本政府が、敗戦後はアメリカ占領軍が、このようなやり方で日本の言論を統制していました。
当時、日本だけが統制経済を行っていたわけではありません。第一次世界大戦のとき、西欧諸国は統制経済を始めました。戦後は徐々に統制を緩めたのですが、1929年に大恐慌が起きた後、西欧諸国はまた統制経済を強化しました。ナチスのドイツが強力に統制経済を進めましたが、イギリスやフランスも統制経済を実施していました。西欧諸国のほうが統制経済の先輩格で、西欧を視察した日本の軍人や政治家たちが日本にも統制経済を導入しようとしたのです。
戦前から戦後にかけての日本は、かなり重度の社会主義の国だったのです。第一次大戦から第二次大戦の間の西欧諸国もアメリカも程度の差はありますが、社会主義国でした。第二次大戦後のイギリスは、企業の国有化を行うなど社会主義的な政策を進め、その結果産業が衰退し、「英国病」と言われました。その統制経済を大胆に改革したのがサッチャー首相です。
今年のアメリカ大統領選挙は、バーニー・サンダースという社会主義者が昨日まで民主党の有力な候補者になっていました。アメリカにもいまだに社会主義者が一定数いるのです。ただし彼では共和党のトランプに勝てないというので候補者から引きずり降ろされました。
ある国が社会主義国か否かは、形式的な政治体制によって決まるのではありません。その国の最高指導者が「書記長」や「委員長」などという社会主義的な役職名を持っているか否か、憲法が経済についてどのように規定しているかに関係なく、実質的に政府がどの程度市場経済に介入しているか否かで判断すべきです。
以下はひと続きのシリーズです。
4月4日 右翼・左翼という言葉を使うと、現実が分からなくなる
4月16日 アメリカが石油を禁輸したから戦争になった、というのは説明になっていない
4月21日 ソ連の工作機関が、アメリカを戦争に誘導していった
5月5日 金本位制復帰も、日本が社会主義化する大きな要因だった
5月9日 反乱を起こした青年将校は、社会主義者を指導者に仰いでいた
5月21日 日本共産党員も獄中転向し、非マルクス系の社会主義者になった
5月23日 天皇制を認めれば、社会主義を信奉してもOKになった
5月30日 ソ連のスパイの尾崎秀実は、支那事変拡大を煽り立てた
6月13日 憲法が規定する自由主義の原則を、国の役所が否定した
6月18日 軍国主義者や右翼が悪い、というのは説明になっていない
6月23日 昭和初期の日本の経済には、社会主義化するような必然性はなかった
6月27日 日本が社会主義化した大きな原因は、Freedomが輸入品だったこと