戦争に負けるまでの昭和初期20年間の日本は、かなりの重度の社会主義国家でした。この事実を、これまでもこのブログで簡単に触れてきましたが、ここで改めて詳しく述べます。
今の圧倒的多数の日本人の常識は、「昭和初期の日本は軍部などの右翼に支配されていて、左翼は激しく弾圧されていた」というものです。しかしこれは誤解です。誤解というよりも右翼・左翼という曖昧な言葉に惑わされて、当時の実態を幾重にも複雑に勘違いしています。
右翼・左翼という言葉を辞書でひくと、下記のようになっています。
右翼 : 保守派、 国粋主義派、 国家主義派
左翼 : 革新派、 社会主義派、 反国家主義派
それでは、社会主義国家だったソ連の支配者はどちらになるのでしょう。支配者たちは現体制を守ろうとする保守派だから右翼ということになります。ところが彼らが社会主義者だったという側面を重視すれば、左翼ということにもなります。
ロシア革命の初期に、スターリンとトロツキーという二人の幹部が対立していました。ソ連は社会主義を表看板に掲げていたので、建前は国家を否定するグローバリズムの国です。トロツキーは表看板通り、世界中の国家を廃止して世界統一国家を目指していました。したがって彼は反国家主義者であり左翼です。ところがスターリンはソ連を他国より優先していたので、国家主義者であり右翼です。スターリンは社会主義者だったという点を除けば、完璧な右翼でした。このような視点からすれば、今の中国共産党の幹部たちは、みな右翼です。
今の日本の立憲民主党や社民党などの野党は、日本国憲法の第9条を守ろうとしているので保守派であり、右翼です。一方の第9条改正を目指す安倍総理は革新派であり、左翼です。憲法第9条に限らず、野党は今の日本の諸制度を守ろうとしているので、全体的に見て保守的であり、右翼です。
上記のように右翼・左翼という言葉を使えば、かつて日本でどういうことが起きたのかがわからなくなるだけです。そもそも右翼・左翼はフランス革命のときにできた言葉で、当時の政治情勢を説明するために生まれました。このような古い言葉を、まったく状況が違う昭和の日本にあてはめるのは、そもそも無理なのです。
以下はひと続きのシリーズです。
4月4日 右翼・左翼という言葉を使うと、現実が分からなくなる
4月16日 アメリカが石油を禁輸したから戦争になった、というのは説明になっていない
4月21日 ソ連の工作機関が、アメリカを戦争に誘導していった
5月5日 金本位制復帰も、日本が社会主義化する大きな要因だった
5月9日 反乱を起こした青年将校は、社会主義者を指導者に仰いでいた
5月21日 日本共産党員も獄中転向し、非マルクス系の社会主義者になった
5月23日 天皇制を認めれば、社会主義を信奉してもOKになった
5月30日 ソ連のスパイの尾崎秀実は、支那事変拡大を煽り立てた
6月13日 憲法が規定する自由主義の原則を、国の役所が否定した
6月18日 軍国主義者や右翼が悪い、というのは説明になっていない
6月23日 昭和初期の日本の経済には、社会主義化するような必然性はなかった
6月27日 日本が社会主義化した大きな原因は、Freedomが輸入品だったこと