これから、陸軍の内部で社会主義がどれほど広がっていったのかを具体的に見ていきます。
下記は、軍隊内部で社会主義的言動を行って摘発された件数です。
1929年:400件 1931年:1905件 1932年:2437件
これらの大部分はコミンテルンの工作員が仕掛けたことではなく、青年将校が社会主義的な発想に染まった結果と考えられます。
陸軍の組織には二つの中心があります。参謀本部は作戦を企画し、各軍に対してとるべき軍事行動を命令する部門です。陸軍省は、軍隊の行政を行います。例えば、戦争に必要な人員を集め、兵器や装備・兵糧などの物資を調達し、予算を確保します。戦争に必要な人的・物的資源を確保するのが陸軍省の仕事なのです。
陸軍省の最重要部署が軍務局で、局長はソ連から流れてきた金を受け取った永田鉄山少将でした。永田は部下の池田純久少佐を東大の経済学部に国内留学させましたが、当時の経済学部はマルクス経済学が盛んでした。そのために池田は社会主義に染まったようです。
1934年に池田純久少佐が、『国防の本義と其強化の提唱』という論文を作成しました。その主張は次の通りです。
階級的対立があったら国防上問題が起きる
国民は利己的個人主義的経済観念より脱却するべき
道義に基づく全体的経済観念を覚醒すべきである
これはまさに社会主義の主張です。
また永田鉄山は、「政治的非常事変勃発に処する対策要綱」という文書も作成しています。これは、軍人がクーデターを起こしたときにどのように対処すべきかをまとめたもので、まるで2年後に起きる2・26事件をあらかじめ想定したようにも思えるほどです。その内容は、下記です。
既成政党の解散
衆議院の職業代表中心への改組
銀行・大企業の国営
土地の国有を行い、統制経済を実施する
これも社会主義政策です。社会主義政策を主張したのは、青年将校だけでなく、軍の幹部も同じだったのです。
以下はひと続きのシリーズです。
4月4日 右翼・左翼という言葉を使うと、現実が分からなくなる
4月16日 アメリカが石油を禁輸したから戦争になった、というのは説明になっていない
4月21日 ソ連の工作機関が、アメリカを戦争に誘導していった
5月5日 金本位制復帰も、日本が社会主義化する大きな要因だった
5月9日 反乱を起こした青年将校は、社会主義者を指導者に仰いでいた
5月21日 日本共産党員も獄中転向し、非マルクス系の社会主義者になった
5月23日 天皇制を認めれば、社会主義を信奉してもOKになった
5月30日 ソ連のスパイの尾崎秀実は、支那事変拡大を煽り立てた
6月13日 憲法が規定する自由主義の原則を、国の役所が否定した
6月18日 軍国主義者や右翼が悪い、というのは説明になっていない
6月23日 昭和初期の日本の経済には、社会主義化するような必然性はなかった
6月27日 日本が社会主義化した大きな原因は、Freedomが輸入品だったこと