「昭和初期の日本は軍部など右翼に支配されていて、左翼は激しく弾圧されていた。当時の日本はかなりの重度の社会主義国家だった」という文章は、多くの人を困惑させます。これは、右翼・左翼という言葉があいまいで人の頭を混乱させるためばかりでなく、「社会主義」という言葉も人を混乱させるからです。
多くの人は、社会主義をマルクスが唱えた思想だと考えています。マルクスが唱えた社会主義は、資本主義から共産主義に社会が移行する過渡期の体制です。資本主義国で革命が起こり、資本家が打倒されて工場などの生産手段が国有化されます。そして何をどれだけ作るのかは、政府が決めることになります。こういう社会体制がマルクス系の社会主義です。
この社会主義は、個人が資本を所有することを認めませんが、働きに応じて報酬を受けとることは認めます。人の三倍の成果を挙げた者は三倍の収入を得るわけで、社会主義は金利や配当などの不労所得を認めませんが、格差は是認します。
社会主義がさらに進化した共産主義社会では、必要に応じて受け取ります。つまり社会主義は「能力に応じて働き、成果に応じて受け取り」ますが、共産主義は「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」、という違いがあります。かつてのソ連は社会主義の段階でした。
つまりわれわれの多くが理解しているマルクス系の社会主義には、1)生産手段は国有化されている 2)政府が経済を統制する(何をどれだけ作るのかは、政府が決める) という二つの原則があります。
ところが社会主義には、マルクス系以外のものもあります。西欧の政党には、「社会民主主義」や「キリスト教社会主義」などを掲げる様々な社会主義政党があります。これらの政党は生産手段の国有化を目指しておらず、労働者の権利保護や貧困対策の充実などを主張しています。つまり、社会的な格差を是正するために政府が市場経済に強く介入することだけを主張しているのです。今の中国は資本家を容認しているので、表向きはこの範疇に入ります。しかし国民の間の極端な格差を是正しようとしないので、実際に社会主義を目指しているわけでもなく、むしろ伝統的な王朝制度に変貌しているような気がします。
マルクス系の社会主義と他の社会主義に共通するのは、「格差是正などのため、政府が市場経済に干渉するべきだ」という考えを持っていることです。生産手段を国有化することは、社会主義の絶対条件ではありません。
以下はひと続きのシリーズです。
4月4日 右翼・左翼という言葉を使うと、現実が分からなくなる
4月16日 アメリカが石油を禁輸したから戦争になった、というのは説明になっていない
4月21日 ソ連の工作機関が、アメリカを戦争に誘導していった
5月5日 金本位制復帰も、日本が社会主義化する大きな要因だった
5月9日 反乱を起こした青年将校は、社会主義者を指導者に仰いでいた
5月21日 日本共産党員も獄中転向し、非マルクス系の社会主義者になった
5月23日 天皇制を認めれば、社会主義を信奉してもOKになった
5月30日 ソ連のスパイの尾崎秀実は、支那事変拡大を煽り立てた
6月13日 憲法が規定する自由主義の原則を、国の役所が否定した
6月18日 軍国主義者や右翼が悪い、というのは説明になっていない
6月23日 昭和初期の日本の経済には、社会主義化するような必然性はなかった
6月27日 日本が社会主義化した大きな原因は、Freedomが輸入品だったこと