前回あげた表をもう一度書きます。
1990年ドル基準の実質GDPを購買力平価で換算 単位:億ドル
・ 日本 ドイツ イギリス ソ連 アメリカ
1929年 1232.5 1759.7 2399.9 2383.9 8443.2
1933年 1371.8 1486.9 2344.1 2648.8 6034.6
1937年 1587.5 2045.5 2807.3 3980.2 8334.5
1941年 2045.2 2582.2 3444.3 N/A 11002.1
昭和初期の日本の経済は大騒ぎするほど悪いわけではありませんでした。少なくとも、大恐慌後のドイツやアメリカほどのダメージを受けたわけではありません。
ソ連のGDPの伸び率が非常に高いです。私有財産を取り上げてすべての産業を計画化した経済制度は、当初は調子が良いのです。それは物資が決定的に不足していて何を優先して作るべきかがはっきりしている状況では、生産資源を集中するのはやはり効率が良いのです。しかしある程度社会が豊かになって何を作るべきかがあいまいになってくると、途端に社会主義経済体制はガタが来ます。
第一次世界大戦後のソ連の経済成長率が高く、またソ連が共産党独裁の汚点を隠し良いことばかりを宣伝したこともあって、資本主義国家の国民の多くが社会主義に好感を抱きました。ソ連が資本主義国に工作活動をしたこともあって、どこの国でも社会主義の力が強くなってきました。
この状況はイギリスやアメリカでも基本的に同じはずです。ところが日本は両国に比べて社会主義化の度合いがはるかに激しかったです。この差は経済的なことから来たのではなく、文化的な要因としか考えられません。
イギリスとアメリカは、Freedomの本家本元で、国民の間にキリスト教の信仰から生まれたFreedomの考え方が根付いていました。だからFreedomの変種である社会主義の考え方の普及に限界がありました。
ところが日本は明治になって西欧からFreedomを輸入したのであって、日本にこの考え方が根付いたわけではありませんでした。日本が社会主義に対する抵抗力が弱かったのは、このためです。
以下はひと続きのシリーズです。
4月4日 右翼・左翼という言葉を使うと、現実が分からなくなる
4月16日 アメリカが石油を禁輸したから戦争になった、というのは説明になっていない
4月21日 ソ連の工作機関が、アメリカを戦争に誘導していった
5月5日 金本位制復帰も、日本が社会主義化する大きな要因だった
5月9日 反乱を起こした青年将校は、社会主義者を指導者に仰いでいた
5月21日 日本共産党員も獄中転向し、非マルクス系の社会主義者になった
5月23日 天皇制を認めれば、社会主義を信奉してもOKになった
5月30日 ソ連のスパイの尾崎秀実は、支那事変拡大を煽り立てた
6月13日 憲法が規定する自由主義の原則を、国の役所が否定した
6月18日 軍国主義者や右翼が悪い、というのは説明になっていない
6月23日 昭和初期の日本の経済には、社会主義化するような必然性はなかった
6月27日 日本が社会主義化した大きな原因は、Freedomが輸入品だったこと