経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している

仏教の自由とは、出家した僧侶が勝手気ままに振る舞う、という意味です。出家した僧侶は社会から離脱し、山の中に一人で住んでいるはずですから、社会のルールに従う必要がありません。

「社会のルールから自由だ」というところが、キリスト教のFreedomと似ています。だから明治初期に日本人は、Freedomを自由と訳したのでしょう。しかしFreedomと仏教の自由とは大きく違います。

キリスト教には出家という考え方はなく、人間は社会の中で住み続けます。Freedomは社会のルールに従うことを前提としています。ただ、隣人愛とルールが衝突する特殊な状況で、ルールを無視しても良い場合がある、と考えるだけです。ところが仏教の自由は、最初から社会のルールを念頭に置いていません。

Freedomは、イエスを信じる事により心が清く正しくなった者にしか認められません。一方仏教の自由は、山の中に一人で暮らしていれば誰でも自由を味わうことができます。山の中に一人で暮らしている者が、すべて心正しい者だとは限りません。

キリスト教徒でない者・野蛮人・子供にはFreedomを認めず、強制して教育をしなければなりません。しかし仏教の自由にはこのような「積極的自由」の発想はありません。

このように、Freedomと仏教の自由は、まるで違う考え方です。ところが明治初期にFreedomを「自由」と訳したために、Freedomに対する誤解が生まれました。それでも明治初期の知識人たちは、ミルの『On Liberty』を原書で読んだり、あるいは中村正直の訳本である『自由之理』を読んだりして、内容を正確に理解していました。

しかし自由という言葉が普及し、内容を確認せずに言葉だけを知っている日本人が増えるにつれて、誤解が広がって行きました。

経団連の幹部は、自由主義の内容を仏教の教義で捉えています。だから「何が社会的に正しいか」考える習慣がなく、勝手気ままに自分たちの利益を追求することが許されると思い込んでいます。

以下はひと続きのシリーズです。

5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた

5月18日 経団連はもともと、天下国家を論じる組織だった

5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した

5月20日 明治初期の日本人は、自由主義を原則としていた

5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った

5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる

5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している

5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった

5月25日 他者を益する行為を人に強制することは、正しい

5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした

5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた

5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた

5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方

5月30日 Freedomはキリスト教の本質である

5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた

6月1日 ルターは、キリスト教は他力本願だ、と主張した

6月2日 イエス・キリストを信じるだけでいい

6月3日 イエスを信じたら、もはや律法を気にする必要はない

6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある

6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である

6月6日 バーリンは、積極的自由を否定した

6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった

6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた

6月9日 自由競争は、優れた者にだけ適用される

6月10日 経団連の幹部は、自由を誤解している

6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある

6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える

6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している

6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった

6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合

6月16日 神様の息には、命が含まれている

6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする

6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない

6月19日 アメリカは、Freedomが原因でエネルギーを浪費している

6月20日 日本人は誠の意味をきちんと理解し、誠のない国から日本を守らなければならない

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