ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた

欧米では、文明国とはキリスト教国のことで、キリスト教を信仰しない民族は野蛮人でした。野蛮人にはFreedomを認めず、保護と強制をしなければならないというが伝統的な考え方でしたから、欧米列強はアジア諸国を次々に植民地にしていきました。

キリスト教の中でも、カトリックとプロテスタントはお互いに相手にFreedomを認めず、さらに違う宗派のプロテスタントも相手を認めようとしませんでした。そういうときにミルが『On Liberty』を書いて、Freedomからキリスト教の枠を取り払い、その適用範囲を広げたのです。

ミルが出てくる前から、イギリスではFreedomからキリスト教の宗派の枠を取り払う考えが次第に勢力を増していました。英国国教会を国教とするイギリスには、カトリック教徒が公職に就くことを禁止する「審査法」という法律がありました。それが1828年に廃止されました。その時にFreedomは宗派の制限が撤廃されて、キリスト教ならすべてOKになりました。ミルはさらにキリスト教枠をも外して、すべての宗教を同列に扱うことにしたのです。

ミルのFreedomからキリスト教を消した考え方が、世界中に普及していきました。そして今では、仏教でも神道でもイスラム教でもヒンドゥー教でも、およそ宗教であれば、自由が認められるようになりました。

日本にFreedomの考え方が入ってきた明治維新は、ちょうどFreedomからキリスト教を消した時期でした。明治初期に日本人が読んだ『自由之理(On Libertyの訳本)』にも、Freedomにキリスト教の制約があるなどとは、書かれていません。

そのために、日本人はFreedomとキリスト教の関係を深く考えませんでした。だからFreedomに「自由」などという仏教用語を訳語に使って平然としていたのです。そして「文明国」になれば、欧米列強も日本を対等に扱ってくれると信じて、「文明開化」を始めました。

以下はひと続きのシリーズです。

5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた

5月18日 経団連はもともと、天下国家を論じる組織だった

5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した

5月20日 明治初期の日本人は、自由主義を原則としていた

5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った

5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる

5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している

5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった

5月25日 他者を益する行為を人に強制することは、正しい

5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした

5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた

5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた

5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方

5月30日 Freedomはキリスト教の本質である

5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた

6月1日 ルターは、キリスト教は他力本願だ、と主張した

6月2日 イエス・キリストを信じるだけでいい

6月3日 イエスを信じたら、もはや律法を気にする必要はない

6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある

6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である

6月6日 バーリンは、積極的自由を否定した

6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった

6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた

6月9日 自由競争は、優れた者にだけ適用される

6月10日 経団連の幹部は、自由を誤解している

6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある

6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える

6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している

6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった

6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合

6月16日 神様の息には、命が含まれている

6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする

6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない

6月19日 アメリカは、Freedomが原因でエネルギーを浪費している

6月20日 日本人は誠の意味をきちんと理解し、誠のない国から日本を守らなければならない

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