ルターは、「イエスを信じるということは、イエスと結婚することだ」と言っています。結婚すれば二人はあらゆるものを共有するわけで、花嫁である人間の罪を花婿であるイエスは飲み込んで消し去ります。そして花嫁は、イエスの清く正しい心を共有するわけです。
ルターは、「聖霊の働き」という考え方を結婚のたとえ話を使って説明しているのです。人間がイエスを信じれば、イエスはその人間を神に推薦します。そうしたら神は自分の魂の一部を息に含んで人間に吹き付けます。
神が人間に吹きつける魂のことを「聖霊」と言います。聖霊が付着した人間の心は、清く正しくなるのです。キリスト教には「三位一体」という考え方があります。神とイエス・キリストと聖霊は、本当は同じものなのですが、その機能によって便宜的に三つに分けて考える、ということです。
ルターは、「キリスト教徒は信仰だけで十分であり、いかなる行いも必要がない。だとすれば、彼は律法から解放されているから自由だ。これがキリスト教的な自由なのである」と書いています。
また、「イエスを信じて第一の主要な戒を満たす者は、他の全ての戒を容易に満たすことができる。だからキリスト教徒は第一の戒だけで十分であり、他の全ての戒から解放されている。彼は自由なのだ」とも書いています。
この部分は、少し分かりにくいと思います。キリスト教の律法は10条あって、「モーゼの十戒」とも言います。その第一戒が、「私のほかに神があってはならない」というものです。人間がイエスを信じれば、この第一戒を満たしたことになります。イエスと神は一体なのでイエスを信じたら、神を信じたことになるからです。
他の9の戒は「父母を敬うこと」とか「人を殺してはならない」などの具体的な条項です。第一戒を守ったら神は人間の心を清く正しくしてくれるので、他の9戒を容易に守ることができます。従って人間はもはや他の9戒を気にする必要がありません。その人間は9戒から解放されています。これがキリスト教徒の自由だ、とルターは言っているのです。
以下はひと続きのシリーズです。
5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた
5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した
5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った
5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる
5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している
5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった
5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした
5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた
5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた
5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方
5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた
6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある
6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である
6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった
6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた
6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある
6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える
6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している
6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった
6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合
6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする
6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない