『On Liberty』を書いたジョン・スチュアート・ミル(1806~1873)は、イギリスの自由主義を主張する学者でした。彼はベンサムの弟子で、二人の考え方は良く似ていました。
陸奥宗光はベンサムの書いた『Principles of Moral and Legislation(利学正宗)』を読んで自由主義を理解しました。中村正直はベンサムの弟子のミルが書いた『On Liberty(自由之理』を読んで自由を理解しました。明治初期の日本人は、同じ系統のイギリスの学者の本を読んで、Freedomを理解したのです。
そこで、明治初期の日本人はFreedomをどのように理解したかを知るために、ジョン・スチュアート・ミルの書いた『On Liberty』を、私はもう一度読んでみることにしました。『On Liberty』は今の日本でも重要な著書と考えられていて、「自由論」というタイトルで多くの訳本が出版されています。私はその中から、斎藤悦則が訳した『自由論』を選びました。
この本の超要約を今から書きます。
昔の支配者は世襲だったので、支配者と国民ははっきりと分かれていました。その時は支配者に対して国民の権利を認めさせることが重要だった、とミルは書いています。その後国民が支配者を選挙で選ぶ時代になると、支配者と被支配者が一体化してきたので、支配者の権力を制限する意味が無くなってきました。
このような社会になると、多数派が国家の支配権を握るので、多数派の考え方や習慣が社会を支配するようになり、意見の合わない少数派を圧迫するようになります。従ってこの時代になると、多数派の専制から少数派を守ることが重要になってきます。
そしてミルは、この種の問題の中でも重要なのは宗教問題だ、と書いています。イギリスではかつて、カトリックは社会の多数派を占め、異なる宗派を弾圧していました。その後プロテスタントが現れてカトリックの支配を覆しましたが、そうなると今度は、プロテスタントが他宗派を弾圧しました。
そこで、少数意見を権威で抑えつけたがる社会に対して、信仰の自由を不可侵の権利だと考える意見が出てきました。人は自分の信仰を他者に説明する責任などなく好きな宗教を信じれば良いのだ、というわけです。
以下はひと続きのシリーズです。
5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた
5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した
5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った
5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる
5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している
5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった
5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした
5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた
5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた
5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方
5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた
6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある
6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である
6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった
6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた
6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある
6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える
6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している
6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった
6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合
6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする
6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない