ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である

ルターは、「律法からの自由」という考え方を主張しました。これがいま、世界中に普及しているFreedomの原点です。

その内容は、下記です。
1)「隣人愛を行う」ということと「律法を守る」という二つの神の教えが互いに矛盾し両立させることが出来ない場合は、律法を破っても構わない場合がある。これが「律法からの自由」である。
2)ただしこれには条件があって、イエスを信じているために神によって心を清く正しくされたキリスト教徒にしか認められない。心正しいキリスト教徒は、正しいことしかしないからである。

実はこの考え方は、ミルの『On Liberty(自由論、自由之理)』に書かれているFreedomの考え方と基本構造が同じです。

ミルは、Freedomとは人間にルールを押し付けずに個人の自主性に任せることだ、と言っています。律法(ルール)のことなど気にしなくても、自らの判断で正しいことを行うはずだからです。これはルターの「律法からの自由」と同じです。

ルターが「イエスを信じているために、心が清く正しくなっている者」と言っている部分を、ミルは「文明国の大人」と言い換えています。ルターが『キリスト者の自由』を書いたのは1520年で、当時はすべての西欧人がキリスト教を信じていました。しかしミルが『On Liberty』を書いたのは1859年で、すでにその信仰はかなり衰えていました。

従ってミルはより多くの人の納得を得るために、「キリスト教徒」を「文明国の大人」と言い換えたのです。但し多くの読者には、キリスト教徒のことを指しているということが分かりました。それを文字通りに理解してFreedomとキリスト教の結びつきをはっきり理解しなかったのが、明治初期の日本人です。

ルターのいう「律法からの自由」は、「イエスを信じているために神によって心を清く正しくされたキリスト教徒」が前提条件になっています。即ち、キリスト教徒でない者には「律法からの自由」を認めません。その考え方をミルは、「野蛮人や子供にはFreedomを認めない」とはっきりさせたのです。

以下はひと続きのシリーズです。

5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた

5月18日 経団連はもともと、天下国家を論じる組織だった

5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した

5月20日 明治初期の日本人は、自由主義を原則としていた

5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った

5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる

5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している

5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった

5月25日 他者を益する行為を人に強制することは、正しい

5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした

5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた

5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた

5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方

5月30日 Freedomはキリスト教の本質である

5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた

6月1日 ルターは、キリスト教は他力本願だ、と主張した

6月2日 イエス・キリストを信じるだけでいい

6月3日 イエスを信じたら、もはや律法を気にする必要はない

6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある

6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である

6月6日 バーリンは、積極的自由を否定した

6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった

6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた

6月9日 自由競争は、優れた者にだけ適用される

6月10日 経団連の幹部は、自由を誤解している

6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある

6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える

6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している

6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった

6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合

6月16日 神様の息には、命が含まれている

6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする

6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない

6月19日 アメリカは、Freedomが原因でエネルギーを浪費している

6月20日 日本人は誠の意味をきちんと理解し、誠のない国から日本を守らなければならない