明治初期の日本人は、自由主義を原則としていた

「明治初期の政府は自由主義の考え方をしていた」と書くと、「明治初期の政府は薩長の藩閥で、自由民権運動を弾圧していたではないか」という反論が出るかもしれません。しかしこれは、偏った見方だと私は思います。

敗戦後の体制というのはそれ以前の明治体制を悪く言うことで正当性を主張している側面があります。従っていまの常識には眉に唾をつけて聞く必要があります。

明治初期の日本は、不平等条約の改正を目指して、「日本は文明国なのだ」と主張する「文明開化」を推進していました。従って、イギリスやアメリカなどの「文明国」が採用している自由主義の原則を日本政府が頭から否定するはずがありません。

明治維新がスタートする時点で、天皇陛下が国民に示された大方針である「五か条の御誓文」には、「広く会議を興し、万機公論に決すべし」と書かれています。専制政治はやらないと宣言しているわけで、この御誓文に逆らえる政治家などいませんでした。

藩閥政治を行った元勲たちは、政治的な自由主義を完全に実施するには準備が必要だと考えていただけです。自由民権運動家たちは、「準備などいらんから今すぐ政治を自由主義化しろ」と主張していました。対立点は政治的な自由の実現時期であって、経済的な自由に関しては、双方に意見の隔たりはありませんでした。

明治4年(1871年)、政府は太政官制を定めました。これは、正院(内閣に相当)・右院(省庁間の意見調整機関で、ほとんど機能しなかった)・左院(立法府に相当)の三つから成り立っていました。

明治7年頃、民間人から左院に対して、私有財産の否定と経済の国家統制を求める建白書が提出されました。これに対して左院は、下記のような自由主義経済を主張する回答をしました。この回答書には左院の議長である伊地知正治の印が捺してあるので、正式な政府見解です。

「政府もまた各人の自由に任せ、自主の権を保有せしめ、常にこれを保護し、・・・業者は税を納めて政府の費用に充つ。これ国語にてこれを云えば随神(かんながら)なり、洋語にて云えば即ちフレイの理なり」。フレイはオランダ語で、英語のフリーと同じ意味です。「随神」とは「神様の意思に従う」という意味ですから、Freedomがキリスト教の信仰であることまで理解しています。

以下はひと続きのシリーズです。

5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた

5月18日 経団連はもともと、天下国家を論じる組織だった

5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した

5月20日 明治初期の日本人は、自由主義を原則としていた

5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った

5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる

5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している

5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった

5月25日 他者を益する行為を人に強制することは、正しい

5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした

5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた

5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた

5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方

5月30日 Freedomはキリスト教の本質である

5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた

6月1日 ルターは、キリスト教は他力本願だ、と主張した

6月2日 イエス・キリストを信じるだけでいい

6月3日 イエスを信じたら、もはや律法を気にする必要はない

6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある

6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である

6月6日 バーリンは、積極的自由を否定した

6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった

6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた

6月9日 自由競争は、優れた者にだけ適用される

6月10日 経団連の幹部は、自由を誤解している

6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある

6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える

6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している

6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった

6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合

6月16日 神様の息には、命が含まれている

6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする

6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない

6月19日 アメリカは、Freedomが原因でエネルギーを浪費している

6月20日 日本人は誠の意味をきちんと理解し、誠のない国から日本を守らなければならない