バーリンは、Freedomの考え方を「消極的自由」と「積極的自由」の二つに分類しました。そして、人間を上等と下等に分けてそれぞれに違った対応をすべきだ、と主張する「積極的自由」の主張に否定的でした。
バーリンはユダヤ人です。ユダヤ人は第二次世界大戦が終わるまで祖国を持たず、諸国を流れ歩いていました。たまたま住んでいる国に愛国心を持つはずがなく、民族主義という発想を理解できませんでした。ユダヤ人は基本的にグローバリストなのです。
さらに彼は、自分の同胞がドイツで殺された時代に生きていました。従って、「民族による差別はいけない」と考えていました。だから彼は、人間を上等と下等に分ける「積極的自由」の考え方に否定的だったのです。
バーリンは欧米のグローバリストの一人であり、日本で言えば「進歩的文化人」にあたるでしょう。彼が活躍していた20世紀後半は、グローバリズムの時代でした。だから彼の自由論は、今の学界の定説になっています。
日本の学校でも、「言論の自由」「職業選択の自由」「出版の自由」「信教の自由」など消極的自由のことしか教えません。個人や民族を上等と下等に分けて差別しなければならないという考え方もFreedom(自由)の考え方に含まれているということを、ほとんどの日本人は教えられていません。
ところが明治初期の日本に入ってきたFreedomの考え方は、両方の考え方を含んだ幅の広いものでした。だから明治初期の日本を今の日本の自由に関する常識で考えると、判断を誤ります。むしろ明治初期に日本に入ってきたFreedomの考え方の方が本流なのです。日本を植民地にしようという欧米の「積極的自由」の考え方に、日本は必死に抵抗していました。
最近までは、バーリンのようなグローバル主義に基づくFreedomの理解が主流でした。ところが今、流れが変わってきていて、西欧でもアメリカでも、民族を上等と下等に分け下等民族を強制的に教育したり隔離したりしようという積極的自由の考え方が勢いを増しています。
ところが日本のマスコミはFreedomの考え方を誤解して、バリバリのキリスト教徒であるトランプ大統領をきちんと理解せずに変人扱いしています。こんなことも分からないようでは日本の将来が心配です。
以下はひと続きのシリーズです。
5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた
5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した
5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った
5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる
5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している
5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった
5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした
5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた
5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた
5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方
5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた
6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある
6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である
6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった
6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた
6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある
6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える
6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している
6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった
6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合
6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする
6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない