自由競争は、優れた者にだけ適用される

ルターやミルが主張した本来のFreedomは、劣ったものを育てて優れたものにしなければならない、という考え方でした。そのためには、劣ったものを保護し、強制的に教育すべきだとしたのです。いわゆる自由競争（規制をせずに、個人どうしが自主的に行動することを容認する）は、優れたものにだけ適用されていたのです。

明治初期の日本の産業は、欧米に比べてはるかに劣っていました。そこで日本政府が産業を育成するために推進した官営事業は、まさに弱者に対する教育と強制でした。この自由主義経済政策に、欧米は反対できなかったのです。欧米の熱心なキリスト教徒は、日本の政策にFreedomを感じ、積極的に応援をしたわけです。

Freedomは、キリスト教の信仰から生まれました。イエスを信じた人間は神様の力によって心が清く正しくなり、正しいことしかしなくなります。そのような優れた人間は、律法や法律などによって外部から規制せず、自主性に任せたほうがうまくいく、と考えるわけです。

ミルは、『On Liberty（自由論、自由之理）』の中からキリスト教の表現を消し去りましたが、「文明国の大人」と表現を変えて実質的にはキリスト教の考え方を残しています。従って、Freedomの考え方の根底にある、「仲間に害を及ぼすようなことをしてはならない」という隣人愛を主張しています。それだけでなく、「他人を守ることに、積極的に参加する義務がある」とも言っています。

Freedomの考え方の中にある「仲間と助け合わなければならない」という隣人愛の考え方と、日本人が伝統的に持っている誠の考え方が一致したために、明治初期の日本人はFreedom（自由）を受け入れました。

この時は、Freedomの考え方の中にある「国民を守る」という考え方（富国強兵）が特に注目されました。だから尊皇攘夷の志士上がりの渋沢栄一が、日本の国益を増進することを目的として東京商工会議所（経団連の前身）を創設しました。

経済的自由主義は、戦前の一時期の統制経済期を除いて、一貫した日本の政策になっています。ところが長い間にFreedomの考え方を日本人が誤解するようになりました。その結果が、最近の経団連のお粗末ぶりです。