他者を益する行為を人に強制することは、正しい

ミルは、効用という基準で倫理問題を判断しなければならない、と主張しています。つまり、個人の行動が他の人々の利害に関係するときは、個人の自発性を外部から統制できるということです。その最たる例が、他人を害する行為は法律によって罰せられる、ということです。

その他にも、他者を益する行為として肯定され、それを強制しても正当とされる行為がたくさんあります。
1、裁判で証言すること
2、自分を保護してくれている社会のために必要な防衛の共同作業に参加して応分の責任を果たすこと
3、人命の救助や虐待されている弱者を保護するための干渉

ミルは、国を守る軍隊のために若者を徴兵することは正しい、と言っているのです。ミルの視点からすれば、軍備を否定する今の日本の憲法は間違っていることになります。欧米列強が日本の安全を脅かしていた明治初期に日本が富国強兵策を推進することは、Freedomの考え方に合致します。

また子供を虐待する親から無理やり子供を引き離すことも正しい、とミルは主張しています。子供を虐待する親の「人権に配慮して」、子供を親元に帰してしまう日本の児童相談所の態度を、ミルは理解できないでしょう。

人は行動することによっても、行動しないことによっても、他者を害することがあります。いずれの場合にも、他者を害したことに対して責任を負うのは当然だ、とミルは主張しています。

何もしなかったことによって他者を害した場合は、社会が力ずくで統制するよりも、個人の自由裁量にまかせたほうが、その人の行動が良くなる場合とか、社会にとっても良い場合があります。

こうした理由で責任が問われない時は、行為者自身の良心がみずから裁判官の役を務めなければならない、とミルは書いています。つまりFreedomが行われる社会というのは、社会の構成員がみんなまともであることが、前提になっています。

以下はひと続きのシリーズです。

5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた

5月18日 経団連はもともと、天下国家を論じる組織だった

5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した

5月20日 明治初期の日本人は、自由主義を原則としていた

5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った

5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる

5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している

5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった

5月25日 他者を益する行為を人に強制することは、正しい

5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした

5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた

5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた

5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方

5月30日 Freedomはキリスト教の本質である

5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた

6月1日 ルターは、キリスト教は他力本願だ、と主張した

6月2日 イエス・キリストを信じるだけでいい

6月3日 イエスを信じたら、もはや律法を気にする必要はない

6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある

6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である

6月6日 バーリンは、積極的自由を否定した

6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった

6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた

6月9日 自由競争は、優れた者にだけ適用される

6月10日 経団連の幹部は、自由を誤解している

6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある

6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える

6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している

6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった

6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合

6月16日 神様の息には、命が含まれている

6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする

6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない

6月19日 アメリカは、Freedomが原因でエネルギーを浪費している

6月20日 日本人は誠の意味をきちんと理解し、誠のない国から日本を守らなければならない

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