ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している

人間は、本当に大事に思うものについては寛容になれない、とミルは書いています。キリスト教の信仰は当時のイギリス人にとって大事だったので、信教の自由はなかなか実現しませんでした。そしてj信教の自由を実現しようとして、自由主義の考え方が生まれてきました。

政府の干渉がどこまで許されるかという問題を、原理原則がないままに判断してもうまく行きません。そこでミルは、この著作の中で、自由主義というシンプルな原理を提案したのです。その原理とは、「他の人間の行動の自由に干渉するのが正当化されるのは、自衛のためである場合に限られる」ということです。

干渉を正当化するには、相手の行為を止めさせなければ、他の人が迷惑するという条件が必要なのです。本人のみに関わる部分については、本人の自主性が絶対です。従って、「相手にとって良いことだ」というのは、干渉を正当化する理由にはなりません。

例えば、自分の勇気を試したいと考えて、高いビルの屋上から飛び降りようとする者がいるとします。ビルの下に誰もおらず他人に迷惑がかかる心配がないときに、彼の行動を警官が止めることは自由に反します。しかし通行人が歩いている時は、警官はその者を止めることができます。

実はこの次に、ミルは非常に大事なことを書いています。「いうまでもないことだと思うが、この原則は、成熟した大人のみに適用される。子供や法的に未成年の若者は対象にならない。まだ世話が必要な未熟者には、外部からの危害に対しても、本人自身の行動に対しても保護が必要なはずだ」

「同じ理由により、民族そのものが未成熟だと考えられる遅れた社会も対象から除外してよいだろう。こうした民族も成長の初期にはきわめて大きな困難にぶつかる。それを克服する手段には選択の余地はほとんどない。改革の精神にあふれた統治者は、その目的を達成する手段がそれ以外になさそうなら、どんな手段を用いても良いのである。」

以下はひと続きのシリーズです。

5月17日 「企業は社会的公器」という考え方が怪しくなってきた

5月18日 経団連はもともと、天下国家を論じる組織だった

5月19日 陸奥宗光は、自由主義に基づいて富国強兵策を実践した

5月20日 明治初期の日本人は、自由主義を原則としていた

5月21日 『自由之理』を読んで、日本人はFreedomの考え方を知った

5月22日 民主主義の時代になると、多数派から少数派を守ることが重要になる

5月23日 ミルは、子供や未開人には自由はない、と主張している

5月24日 日本の独立には、文明国になること、Freedomを認めることが不可欠だった

5月25日 他者を益する行為を人に強制することは、正しい

5月26日 ミルは、Freedomの考え方とキリスト教の関連を断とうとした

5月27日 ミルは、キリスト教も他の宗教と同じく完全ではない、と考えた

5月28日 ミルは、キリスト教徒以外にもFreedomを認めた

5月29日 日本人が学んだのは、キリスト教を消したFreedomの考え方

5月30日 Freedomはキリスト教の本質である

5月31日 ルターは、カトリックの修道士になったが、教義に疑問を感じた

6月1日 ルターは、キリスト教は他力本願だ、と主張した

6月2日 イエス・キリストを信じるだけでいい

6月3日 イエスを信じたら、もはや律法を気にする必要はない

6月4日 心正しいキリスト教徒に限って、律法を破っても良い場合がある

6月5日 ルターの「律法からの自由」とミルのFreedomは同じ考え方である

6月6日 バーリンは、積極的自由を否定した

6月7日 バーリンのように、積極的自由を否定するのがこれまでの主流だった

6月8日 明治初期の政府は、税金を投入して自由主義経済を育てた

6月9日 自由競争は、優れた者にだけ適用される

6月10日 経団連の幹部は、自由を誤解している

6月11日 Freedomの誤解と大アジア主義の幻想の根底には、大乗仏教がある

6月12日 大乗仏教は、民族の違いなどなく、勝手気ままな態度が正しい、と教える

6月13日 経団連幹部は、自由主義経済を大乗仏教の教義で解釈している

6月14日 出家しているはずの僧侶が、俗世に関わるようになった

6月15日 Freedomを自由と訳したのは、一種の神仏習合

6月16日 神様の息には、命が含まれている

6月17日 キリスト教も神道も、神は自分の魂を人間に付着させて心を正しくする

6月18日 Freedomは、日本語に訳さないほうが良いかもしれない

6月19日 アメリカは、Freedomが原因でエネルギーを浪費している

6月20日 日本人は誠の意味をきちんと理解し、誠のない国から日本を守らなければならない

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