アメリカ占領軍の置き土産のマルクス系社会主義が大乗仏教化した二番目の理由は、FreedomとEqualityの訳語に自由・平等という仏教用語を使ったということです。このために、日本人はFreedomとEqualityを仏教の教義で解釈するようになりました。これは、社会主義者たちも保守派も変わりません。
もともと欧米のFreedomはキリスト教から生まれました。市民たちは神を信じる心正しい者たちだ、ということを前提にして、市民の自主性を大幅に認めようという考え方です。
一方の社会主義は、Freedomのもう一つの側面を強調します。「資本家も自営業者も自分の利益しか考えない者たちだから、労働者の代表である賢者が力づくで彼らに正しいことをさせなければならない」という考え方です。
ところが日本では、自由を「周囲に人がいないかのように勝手気ままに振舞うこと」という大乗仏教の発想で考えており、この点では保守派も社会主義者も同じです。だから社会主義者は自分たちの存在を誇示するために、保守派よりもはるかに強硬に自由・平等を叫びました。このため、一般の日本人は、自由・平等を声高に主張するのが社会主義だ、と思っているふしがあります。
本来のマルクス系社会主義は、私有財産を否定することも重要な政策にしています。ところが旧社会党の流れを汲む社会主義政党(立憲民主党・国民民主党・社会民主党)は、私有財産を否定する政策を掲げておらず、ただ平等な社会を目指しているだけです。つまり、マルクス系の社会主義政党であることをやめ、大乗仏教系の社会主義政党になったということです。
今の日本人が自由をどのように考えているのか、を示す好例が最近起こりました。ウイルスによる病気の蔓延のため、政府は4月に緊急事態宣言を出し、不要不急の外出の自粛を国民に要請しました。
これは国民の自発性に期待したもので違反に対する罰則はありません。自由とは、周囲の他人を考えずに勝手気ままに振舞う権利なので、政府がそれを制限することができない、という考え方からです。これは大乗仏教の自由そのものです。
アメリカや西欧も同時期に外出禁止令を出しましたが、これは強制力があり、違反者は罰せられます。疫病が蔓延する時に不要不急の外出をする者は心が邪悪な者なので、強制的に正しいことを行わせなければならない、というFreedomの考え方からです。
日本の政府が罰則を伴わない外出自粛を国民に要請したことに対し、社会主義政党である野党は、反対しませんでした。本来の社会主義の発想であれば、「政府は違反者に厳しい罰則を課すべきだ」ということになるはずです。これを見ても、日本の社会主義が大乗仏教化していることが、よくわかります。
以下はひと続きのシリーズです。
8月1日 1970年と1989年が、戦後のターニングポイント
8月4日 1970年頃から、電車の中で座席を譲らないようになった
8月6日 席を譲らなくなったのは、自由の考え方が強まったから
8月13日 日本を占領したアメリカ軍の幹部に社会主義者が大勢いた
8月20日 占領軍の社会主義者は、日本の軍人や官僚とは別系統だった
8月22日 アメリカ占領軍は、マルクス系社会主義を持ち込んだ
9月3日 Freedomを自由と訳したから、社会主義が仏教化した
9月10日 フランスの学生は、大乗仏教に影響されて大学紛争を起こした
9月12日 日本の学生は、フランス製の仏教思想によって、大学紛争を起こした