1970年は、経済面だけでなく、日本人の心理的な側面でもターニングポイントでした。人間の心理と社会環境は相互に影響しあうので、社会の変化と人間心理の変化は同時に起こります。だから1970年頃に社会の変化と日本人の考え方の変化が同時に起きたのも、当然なのです。
1970年頃、私は電車に乗っていて日本人の心理の変化に気づきました。1970年以前は、若者は年配者にごく当たり前に席を譲っていました。小中学校では、先生が生徒たちに「年配の人に席を譲るように」などという道徳的教育をよくしていました。
大勢の人が見ている前で人に席を譲るのは、恥ずかしいというか心理的抵抗がかなりあります。私だけでなく、私の目の前で席を譲った人の様子を見ていても、思い切って年配者に声をかけた、という緊張感が私にも伝わってきました。ところが1970年ごろを境目に、電車内で席を譲らない日本人が増えてきました。
小さな出来事が社会を知らず知らずにうちに変えていく、ということは、よくあります。その有名な例として、アメリカの通りで起きたことが挙げられます。通りのゴミをきれいに掃いていれば、通行人もごみを捨てません。ところがゴミを放置して通りが汚くなると、違法駐車が増えます。次に車上荒らしなどの犯罪が増え、最終的にその通りは危険地帯になりました。つまり、ゴミを捨てるという小さな行為によって、その地域の住民の心理状態が変わるのです。
これと同じように、日本人の心の変化によって日本人は電車の中で席を譲らなくなりました。この小さな変化が、日本人の心理のさらなる変化を呼び起こした、ということです。電車の中で席を譲らないということだけでなく、自転車の左側通行を守らないなどという、同じような小さな変化が多く起きました。
誰でも、年配の人や体が不自由な人に席を譲るのが社会的には正しい、ということを分かっています。しかし、実際に席を譲るという行為をするには、相当な心理的な抵抗があります。1970年以降の日本人は、その心理的抵抗を突破できず、電車の中で席を譲らなくても良い、という理屈に傾いていったのです。
以下はひと続きのシリーズです。
8月1日 1970年と1989年が、戦後のターニングポイント
8月4日 1970年頃から、電車の中で座席を譲らないようになった
8月6日 席を譲らなくなったのは、自由の考え方が強まったから
8月13日 日本を占領したアメリカ軍の幹部に社会主義者が大勢いた
8月20日 占領軍の社会主義者は、日本の軍人や官僚とは別系統だった
8月22日 アメリカ占領軍は、マルクス系社会主義を持ち込んだ
9月3日 Freedomを自由と訳したから、社会主義が仏教化した
9月10日 フランスの学生は、大乗仏教に影響されて大学紛争を起こした
9月12日 日本の学生は、フランス製の仏教思想によって、大学紛争を起こした