1968年にパリで起きた「5月革命」は、サルトルの実存主義哲学によって起こりましたが、これは実質的に大乗仏教の教義です。フランス人の学生たちは、この思想に基づいて伝統的なキリスト教の権威を否定し、権力の象徴たる機動隊に敷石を投げつけました。
この5月革命に影響を受けて、日本の学生たちは大学紛争を起こし、大学教授をつるし上げたり、大学をバリケードで封鎖して機動隊と棒で殴りあったりしました。このとき私は高校生でしたが、サルトルの『存在と無』は日本でも有名になっていて、学生たちがこれを聖典として崇めていました。
大学に入ってから私は『存在と無』を読んでみましたが、書いてある内容が全く理解できませんでした。中年を過ぎてから大学院で仏教を学んでやっと、私はサルトルの説を理解することができました。
サルトルと内縁関係にあったのが、有名な実存主義哲学者のボーヴォワールです。彼女はその代表作である『第二の性』の中で、「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」と主張しています。第二の性とは女性のことです。
キリスト教は、神が人間を作ったと考えます。神はそれぞれの人間を作るときに男女の性別を決めて作ります。つまり女は女として生まれるのです。ところがボーヴォワールは神様を否定して、生まれた後の教育や社会的習慣などによって女になる、と主張しています。
彼女は、人間には男女の区別などもともとないと言っているわけで、これは大乗仏教の主張です。つまり実存主義(大乗仏教)の考え方から、伝統的なキリスト教の権威に反抗しているのです。
このような、「もともと男女の差などない」という考え方から、彼女は妊娠中絶の合法化を求める運動をはじめとする女性解放運動を行いました。この運動がアメリカに影響を与え、男女平等の運動になっていきました。
サルトルやボーヴォワールのようなフランス発の大乗仏教の教義(実存主義)がパリで5月革命を起こし、それに影響を受けた日本の学生が大学紛争を起こしました。
大学紛争を起こした日本の学生たちが、実存主義哲学(大乗仏教)を理解できたはずは、ありません。ただ、そこに流れる大乗仏教の雰囲気が日本人学生の大乗仏教的感性を刺激したのだと思います。そして伝統的権威に抵抗する姿勢を、「国家は悪いことをする」という考え方に重ね合わせたのです。1968年には、日本の社会主義はすでに大乗仏教化していました。
以下はひと続きのシリーズです。
8月1日 1970年と1989年が、戦後のターニングポイント
8月4日 1970年頃から、電車の中で座席を譲らないようになった
8月6日 席を譲らなくなったのは、自由の考え方が強まったから
8月13日 日本を占領したアメリカ軍の幹部に社会主義者が大勢いた
8月20日 占領軍の社会主義者は、日本の軍人や官僚とは別系統だった
8月22日 アメリカ占領軍は、マルクス系社会主義を持ち込んだ
9月3日 Freedomを自由と訳したから、社会主義が仏教化した
9月10日 フランスの学生は、大乗仏教に影響されて大学紛争を起こした
9月12日 日本の学生は、フランス製の仏教思想によって、大学紛争を起こした