前回、年功序列は日本独特の人事制度で外国にはない、ということを書きました。また、戦前にはこのような制度はなく、戦後に新たにできた労働慣行だ、ということも書きました。
なぜ年功序列という労働慣行ができたのか、長い間私にはその原因が分かりませんでした。後に私が仏教を学ぶようになって、やっと年功序列の考え方が仏教から来たことが分かってきました。
仏教に、法臘(ほうろう)という言葉があります。これは、出家後の年数のことです。僧侶の間では、法臘を基準とした年功序列が強固にあります。日本の仏教宗派の組織人事は、非常に年功序列の要素が強いです。
それ以外の細かいことでも、仏教には年功序列の要素が強くあります。例えば、禅宗の僧侶は托鉢をしに町に出かけるときは、必ず集団で出かけます。道路わきで一人で托鉢している僧侶は偽者です。
彼らは法臘が永い順に前から後ろに列を作って歩きます。この順番は固く守られているだけでなく、横に並んで歩くこともありません。禅宗はおよそ800年前の鎌倉時代に支那から輸入されたので、法臘による年功序列は少なくとも800年の歴史があります。
戦前までの日本には年功序列の労働慣行などありませんでした。戦後になってこのような慣行が生まれたということは、それだけ日本社会の仏教化が進んだということです。大乗仏教の教義も年功序列を促進しています。日本の大乗仏教は、個人間の能力の差などない、と考えます。能力の差がない人間の間で上下関係を維持しようとすれば、年次の古さを基準にするしかないのです。
戦前の学校では落第や飛び級が当たり前のようにありましたが、今はありません。これも教育の分野における年功序列制度です。
このように、自分の身近な体験からしても、戦後の日本が非常に仏教化していることは明らかです。最近になって、企業で年功序列を見直す動きがあり、また18歳になる前に大学入学を認めるケースが出てきました。これはあまりにも行き過ぎた仏教化に対する反省が起きてきた、ということなのでしょう。
以下はひと続きのシリーズです。
8月1日 1970年と1989年が、戦後のターニングポイント
8月4日 1970年頃から、電車の中で座席を譲らないようになった
8月6日 席を譲らなくなったのは、自由の考え方が強まったから
8月13日 日本を占領したアメリカ軍の幹部に社会主義者が大勢いた
8月20日 占領軍の社会主義者は、日本の軍人や官僚とは別系統だった
8月22日 アメリカ占領軍は、マルクス系社会主義を持ち込んだ
9月3日 Freedomを自由と訳したから、社会主義が仏教化した
9月10日 フランスの学生は、大乗仏教に影響されて大学紛争を起こした
9月12日 日本の学生は、フランス製の仏教思想によって、大学紛争を起こした