バラモン教の信用が落ちてきた

最後に、インドを宗教的視点及びFreedomや誠の視点から見てみます。インドは宗教が社会に大きな影響を及ぼしている国です。そしてインドの宗教であるヒンドゥー教は、大乗仏教と教義上は似ています。ところが、現実社会に対しては、全く逆の作用を及ぼしています。

今から3000年ほど前に、白人種であるアーリア人が中央アジアの平原からインドに攻め込んできて、先住民である有色人種を征服して奴隷にしました。アーリア人はバラモン教をインドに持ち込んだのですが、これは非常に面白い宗教です。

バラモン僧が定められた儀式通りに神に祈れば、神は人間の願いを必ず叶えるのです。そして儀式の詳細を知っているのはバラモン僧だけです。つまりバラモン教は、聖職者が神を追い使う宗教なのです。バラモン僧は神よりも強大な力を持っているので、一般信者はバラモン僧の指示に従わなければどうしようもありません。その結果、バラモン教は社会に圧倒的な影響力を持つに至りました。

少し話が横道にそれますが、バラモン教の儀式では、犠牲の動物を焼いてその煙を天の神様のもとに届けます。この儀式の際、バラモン僧は「ソーマ」というキノコを搾った液体(一種の麻薬)を飲んでハイな気持ちになって神に祈るのです。

実はこの儀式が、仏教の密教に伝わっています。真言宗や天台宗では、木片の山に植物油を投じて焼いて火を起こし、祈祷をします。この儀式を「護摩(ゴマ)」というのは、バラモン教の「ソーマ祭」から来ているのです。

バラモン教の儀式に関する詳細な知識を持つバラモン僧が神に祈れば、依頼主の願いは必ず聞き届けられるはずですが、実際には叶えられないことが多いです。そこでバラモン教の信用が低下してきました。今から2400年ほど前には、バラモン教に疑問を持った僧侶たちが次々と新興宗教を始めました。仏教もその一つです。

その後もさらにバラモン教の凋落が続き、ついには根本的な改革をせざるを得なくなりました。それまでバラモン教は征服者であるアーリア人だけの宗教で、被征服民はそれぞれ自分たちの伝統的な宗教を信じていました。

バラモン教は2000年ほど前に、被征服民の奴隷たちを宗教の信者に組み入れました。その結果できたのが、ヒンドゥー教です。ヒンドゥー教は、「化身」という仕組みを考えだしました。「神様は、無知な人間を導くために、時には別の神の姿をする」というものです。被征服民の神々は、ビシュヌ神というヒンドゥー教の神の化身だ、というわけです。実はお釈迦さまも「化身」の一人になっています。従ってインド人から言わせれば、仏教徒はヒンドゥー教徒なのです。

被征服民もアーリア人と同じ宗教の信者になったので、被征服民は従来の奴隷の扱いから格上げされ、下層階級に認定されました。このようにしてできたのがカースト制度です。

バラモン教とヒンドゥー教の一番大きな違いは、信者の範囲が違うことで、そのほかの教義はそれほど違いません。バラモン教の聖典を「ヴェーダ」と言いますが、ヒンドゥー教も同じヴェーダを聖典にしています。

以下はひと続きのシリーズです。

9月22日 アメリカはできた当初からキリスト教国家である

9月24日 自分が正しいと思っているから、アメリカは戦争ばかりする

9月26日 南部は、北部の文化の押し売りを嫌がって、南北戦争を起こした

9月29日 アメリカ人の、「自分は正しい」という発想は根強い

10月1日 アメリカのFreedomを変えたのは社会主義

10月3日 アメリカでは、民主党が社会主義化した

10月6日 共和党にグローバリストのネオコンが入り込んだ

10月8日 アメリカはどんどんグローバル化した

10月10日 オバマは社会主義者でグローバリスト

10月13日 トランプは、共和党の中のネオコンと戦って大統領になった

10月15日 トランプは、「メリー・クリスマス」にこだわった

10月17日 トランプの「アメリカ・ファースト」はFreedom

10月20日 アメリカは今でも白人が圧倒的に多い

10月22日 ユダヤ人のほとんどは、アメリカとイスラエルに住んでいる

10月24日 第二次大戦後にアメリカはイスラエルを特別扱いし始めた

10月27日 「聖書の予言は必ず実現する」とアメリカの福音派は思った

10月29日 8000万人のアメリカ人が最後の審判を信じている

10月31日 アメリカでの宗教の自由

11月3日 スンニー派とシーア派の対立は、宗教対立ではない

11月5日 イランは、中東の他の国とは人種が違う

11月7日 イスラム教には、Freedomや誠の考え方がない

11月10日 イスラム教徒は、社会的ルールを破る必要がない

11月12日 支那人は、血族が集まって集団を作る

11月14日 支那では、宗族しか頼りにならなかった

11月17日 支那人には、仲間を助ける、という発想がない

11月19日 朝鮮では、儒教は消滅した

11月21日 新羅は民族国家ではなかった

11月24日 南北朝鮮が、対等な関係で統一されることはない

11月26日 日本は、朝鮮を相手にすべきではない

11月28日 アメリカと西欧は、基本的に似ている

12月1日 バラモン教の信用が落ちてきた

12月3日 インドに行けば、日本人は下層民扱いを受ける

12月5日 これから、宗教の違いが重要になる

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コメント

  1. 黒田貴妃 より:

    バラモン教はなぜ階層が厳しいのか?
    融和策等は提案されたのか?
    教えてください

    • 市川隆久 より:

      バラモン教はアーリア人がインドに侵入する前からアーリア人が信仰していてインドに持ち込んだ宗教です。従ってバラモン教はアーリア人だけの宗教です。原住民を奴隷にしていたので、信者扱いしなかったようです。およそ2000年ぐらい前に、それまで信者扱いしなかった原住民(シュードラ、即ち奴隷という意味)を信者に加えました。宗教の枠組みが変わったので、以後はヒンドゥー教というようになりました。カーストの上位三階級、バラモン(僧侶)、クシャトリア(武士)、バイシア(平民)の区別は、バラモン教の時代からあったようです。階層の差が厳しい理由は二つあると思います。一つは混血度合いです。バラモンは白人の血統しかなれませんでした。クシャトリア・シュードラになるにつれて混血度合いが増えていました。また、バラモン教が非常に大きな権威を持っていたので、祭司のバラモンが上位になったということです。
      「階層の融和」などという発想は近年のもので、古代には無かった考え方だと思います。そうはいっても、下層階級はそこから抜け出たいという思いがあり、それがジャイナ教や仏教の興隆につながりました。どちらも人種の差を否定する宗教です。インド独立後にネルーは、仏教を復活させてヒンドゥー教の差別を緩和しようとしました。しかしこの試みはうまくいっていません。