日本が金本位制復活に向けて様々な努力をしている最中の1929年に、アメリカで大恐慌が起きそれが世界中に伝播したので、欧米諸国は金の輸出を禁止し、金本位制をまた廃止しました。
世界中が恐慌に陥り金本位制を廃止している最中の1930年に、浜口雄幸首相・井上準之助蔵相が金本位制を復活させました(金解禁)。金本位制のもとでは、外国から金での支払いを要求されたら拒むことはできません。そのためには紙幣である円の発行額を金準備高に見合った額まで縮小しなければなりません。
井上蔵相は、円紙幣の市中に出回っている量を大幅に減らしました。「お金じゃぶじゃぶ政策(市中に出回るお金をどんどん増やして人々の心を変え、経済を活性化させる金融緩和)」の逆をやったわけです。
紙幣の量が減るということは、紙幣に希少価値が生じるということです。お金の値打ちが物に比べて高くなるので物価は下がります。これによって日本はもの凄いデフレになり、恐慌状態になりました。
浜口首相が東京駅で暴漢にピストルで撃たれて死亡した後、犬養毅首相・高橋是清蔵相のコンビが、1931年末に金輸出をまた禁止し、金本位制を廃止しました。金本位制を廃止すれば、金の有り高を気にせずにどんどん紙幣を刷ることができます。
高橋是清は、紙幣を大量に刷って市中に出回らせ、恐慌を終わらせました。最近の学者の研究により、1930年代の世界的な恐慌の時、金本位制を採用していた国は紙幣を思うように増刷することができず、景気の回復が遅れたことがあきらかになっています。
このように市中に出回っている紙幣の量と景気とは、密接な関係があります。この時代、お金じゃぶじゃぶ政策が景気回復に有効だという経済理論は出来ていませんでした。しかし、高橋是清などセンスの良い政治家は、このことを実務経験を積むうちに理解しました。
以下はひと続きのシリーズです。
10月4日 穏やかなインフレになれば、経済は自然に良くなっていく
10月6日 プラザ合意で、為替を本当の変動相場制にすることにした
10月7日 日本には、お金じゃぶじゃぶ政策しか残されていなかった
10月8日 お金じゃぶじゃぶ政策は、欧米では当たり前の政策だった
10月9日 19世紀末から20世紀前半は、金本位制が優れた制度だと考えられていた
10月11日 高橋是清は、経済は集団心理で動く、と理解していた
10月12日 経済は集団心理で動くのに、経済学はそれを数字で説明しようとする
10月13日 経済活動は、その民族の伝統的な考え方に大きく影響されている
10月14日 『男子の本懐』はデフレを深刻にした金本位制復活がテーマ
10月15日 2014年の消費税値上げにより、アベノミクスがとん挫した
10月17日 白川日銀総裁は、頑なに「お金じゃぶじゃぶ政策」を拒否した
10月18日 日銀がお金じゃぶじゃぶ政策を採用しなかったのは、国民が「日本はもう経済成長しなくても良い」と考えたから
10月19日 20年以上日本経済が停滞したのは、大乗仏教が原因