デフレが経済にとって悪くインフレの方が良いということを体で理解するのは、けっこう難しいです。多くの人、特に自分で事業をしていない給与所得者や年金生活者は、消費者の立場で経済を考え、生産活動のことをあまり考えません。
デフレの時は買い物を先延ばしにする傾向があります。今年1万円で買える服を我慢して買わずにいれば、来年はもっと安く買うことができます。デフレとは、お金の値打ちが次第に上がっていくことです。従って借金がなく、ある程度の現金・預金を持っている人にとって、デフレは心地よいです。
企業の立場からデフレを見ると、商品の販売単価が下がるだけでなく、販売数量も減少します。その結果生産能力が余るので、設備投資を減らし労働者を解雇するようになります。そのために社会全体の購買力がますます減り、経済活動がどんどん衰えていきます。
また市中に出回っている金を増やせばなぜインフレになるのか、も一般の人には分かりづらいです。しかし証券会社や銀行など投資のプロたちや会社の経営者たちは、「政府は本気になってインフレを起こそうとしている」と判断すれば、行動を変えます。
インフレになれば経済が活性化して売り上げが増え、時間が経つほど物価が上昇します。そこで彼らは、設備や資材などを早めに購入して生産能力の増強に努めます。経済が上向きになれば株価も騰がるので、今のうちに株を買っておこうとします。つまり実態経済が何も変わっていないのに、インフレになったかのように行動し始めるのです。
1万円札をどんどん刷って市中に出回る量を増やせば、ドルなどの外貨に比べて円の希少価値が下がり円安になっていきます。その結果輸出も増えていきます。
もちろん一年後に物価が1000倍になるなどという極端なインフレは経済を破壊しますが、年率2~3%程度の穏やかなインフレ状態が経済発展には一番好都合です。アベノミクスもインフレ目標を2%に設定しています。
穏やかなインフレが実現できれば、経済は自然に良くなっていきます。アベノミクスの第一の矢が「大胆な金融緩和」になっているのもこのためです。
以下はひと続きのシリーズです。
10月4日 穏やかなインフレになれば、経済は自然に良くなっていく
10月6日 プラザ合意で、為替を本当の変動相場制にすることにした
10月7日 日本には、お金じゃぶじゃぶ政策しか残されていなかった
10月8日 お金じゃぶじゃぶ政策は、欧米では当たり前の政策だった
10月9日 19世紀末から20世紀前半は、金本位制が優れた制度だと考えられていた
10月11日 高橋是清は、経済は集団心理で動く、と理解していた
10月12日 経済は集団心理で動くのに、経済学はそれを数字で説明しようとする
10月13日 経済活動は、その民族の伝統的な考え方に大きく影響されている
10月14日 『男子の本懐』はデフレを深刻にした金本位制復活がテーマ
10月15日 2014年の消費税値上げにより、アベノミクスがとん挫した
10月17日 白川日銀総裁は、頑なに「お金じゃぶじゃぶ政策」を拒否した
10月18日 日銀がお金じゃぶじゃぶ政策を採用しなかったのは、国民が「日本はもう経済成長しなくても良い」と考えたから
10月19日 20年以上日本経済が停滞したのは、大乗仏教が原因