政府と日銀が、「これから日本の経済を穏やかなインフレにするぞ」と決意表明し、その覚悟が人々に伝わったら経済が自然に良くなっていく、というのがアベノミクスの考え方です。最初に公共投資などによって需要を喚起して実体経済を良くしよう、という考え方ではありません。
「実体経済の変化よりも人間の心理が先に変わって景気が良くなる」という理屈を、多くの人はなかなか理解できませんでした。特に日本はマルクス経済学の伝統が強いので、この考えに対する抵抗が大きかったのです。
マルクスが唱えた共産主義の哲学は「唯物史観」で、社会の経済的構造が人間の思考を決めるという考え方です。人間の心理が現実の社会に影響を与えるなどと考えるのは、とんでもない間違いなのです。
現実はマルクス経済学のようにではなく、アベノミクスが想定した通りに進行しました。民主党の野田総理が衆議院の解散を宣言したのは、11月16日でした。12月16日に投票が行われて自民党が圧勝しました。阿部晋三自民党総裁が二度目の総理大臣に就任したのは2012年12月26日です。
下のグラフを見ても分かるように、11月16日に野田総理が衆議院の解散を宣言した途端に、日経平均は上昇を始め、為替は円安に向かいました。この時点ではまだ選挙も行われておらず、アベノミクスも開始されていませんでした。
日経平均
アメリカドル/円
安部晋三自民党総裁は衆議院選挙の前からアベノミクスを公約に掲げていました。そしてマスコミなどは、衆議院選挙で自民党が大勝し政権交代が起こると予想していました。従って民主党の野田総理が11月に衆議院を解散した途端に、多くの日本人は自民党が政権をとること及びアベノミクスが実施されることを予想しました。
そこで多くの投資のプロや経営者たちは、インフレになると考え、それを前提にして行動を開始しました。そのために阿部総裁が首相になる前に相場が動いたのです。
以下はひと続きのシリーズです。
10月4日 穏やかなインフレになれば、経済は自然に良くなっていく
10月6日 プラザ合意で、為替を本当の変動相場制にすることにした
10月7日 日本には、お金じゃぶじゃぶ政策しか残されていなかった
10月8日 お金じゃぶじゃぶ政策は、欧米では当たり前の政策だった
10月9日 19世紀末から20世紀前半は、金本位制が優れた制度だと考えられていた
10月11日 高橋是清は、経済は集団心理で動く、と理解していた
10月12日 経済は集団心理で動くのに、経済学はそれを数字で説明しようとする
10月13日 経済活動は、その民族の伝統的な考え方に大きく影響されている
10月14日 『男子の本懐』はデフレを深刻にした金本位制復活がテーマ
10月15日 2014年の消費税値上げにより、アベノミクスがとん挫した
10月17日 白川日銀総裁は、頑なに「お金じゃぶじゃぶ政策」を拒否した
10月18日 日銀がお金じゃぶじゃぶ政策を採用しなかったのは、国民が「日本はもう経済成長しなくても良い」と考えたから
10月19日 20年以上日本経済が停滞したのは、大乗仏教が原因