バブル崩壊後20年以上にわたって、日本の政府や日銀は欧米とは違う特殊な経済運営をやってきました。このことを今から書きます。
最初に余談ですが、小説の話をします。『男子の本懐』(1980年出版)は、浜口雄幸首相と井上準之助蔵相が苦労して金本位制を復活させた(1930年)ことを題材にした小説です。著者の城山三郎(1927年~2007年)は特攻隊に志願したことでも分かるように、男子は命がけで何事かを成し遂げることが大事だ、と考えていたようです。
彼は敗戦後に一ツ橋大学で経済を勉強し、卒業論文として「ケインズ革命の一考察」を書いています。大学卒業後に愛知県の大学で景気論と経済原論を教えていたので、経済学者だと考えて良いでしょう。
城山三郎は経済学者なので、昭和初期に行った金本位制の復活が大失敗であり、そのために日本の恐慌とデフレが一層深刻になったことを知っていたはずです。また戦後になって世界のどの国も金本位制を復活させていないので、金本位制は現代社会に合わない古い経済制度だったことも分かっていたはずです。
それなのになぜ彼は、『男子の本懐』を書いて金本位制の復活に奮闘する姿を描いたのか、私はしっくりきませんでした。だからこの小説のことは出版された当初から知っていましたが、私は読む気が起こりませんでした。
アマゾンでこの小説の書評を見ると、「感動した」というコメントが多く寄せられています。城山三郎は非常に有名なベストセラー作家ですから、『男子の本懐』を読んで感動した読者はたくさんいると思います。金本位制の復活などという専門的なテーマの小説を読む人ですから、多くの読者はある程度の地位にいる経済人なのではないでしょうか。
この小説は、「どんな改革にも、私腹を肥やそうとして反対する者はいる。経済が分かっている専門家は雑音に耳を貸さず断固として経済改革を実施するべきだ」という考え方を助長したのではないでしょうか。
実際にデフレを長引かせた政府や日銀の専門家は、浜口雄幸や井上準之助と同じように頑固な態度を保ってきました。
以下はひと続きのシリーズです。
10月4日 穏やかなインフレになれば、経済は自然に良くなっていく
10月6日 プラザ合意で、為替を本当の変動相場制にすることにした
10月7日 日本には、お金じゃぶじゃぶ政策しか残されていなかった
10月8日 お金じゃぶじゃぶ政策は、欧米では当たり前の政策だった
10月9日 19世紀末から20世紀前半は、金本位制が優れた制度だと考えられていた
10月11日 高橋是清は、経済は集団心理で動く、と理解していた
10月12日 経済は集団心理で動くのに、経済学はそれを数字で説明しようとする
10月13日 経済活動は、その民族の伝統的な考え方に大きく影響されている
10月14日 『男子の本懐』はデフレを深刻にした金本位制復活がテーマ
10月15日 2014年の消費税値上げにより、アベノミクスがとん挫した
10月17日 白川日銀総裁は、頑なに「お金じゃぶじゃぶ政策」を拒否した
10月18日 日銀がお金じゃぶじゃぶ政策を採用しなかったのは、国民が「日本はもう経済成長しなくても良い」と考えたから
10月19日 20年以上日本経済が停滞したのは、大乗仏教が原因