アベノミクスの「三本の矢」でもっとも重要なのは、「大胆な金融緩和」です。これには何段階かのプロセスがあります。
第1ステップ 日銀が市中に出回っているお金をどんどん増やす。
これは、政府と日銀が市場に対して「これからインフレを起こすぞ」という決意表明をする、ということを意味します。
第2ステップ 政府の決意表明から半年以内に実質金利が低下する。
年率2%のデフレのときに、企業が銀行から借金して1億円で商品を仕入れたとします。金利が1%だとすると、この企業は1年後に1億100万円を返済しなければなりません。
1年後には同じ商品が9800万円で買えます。つまり銀行に支払う金利は、表面上は1%ですが、実質的には3%です。デフレの時はデフレ率だけ実質的に金利が上乗せされます。逆にインフレになれば、その分実質金利は低下します。
政府と日銀が市中に出回っているお金を増やして「これからインフレを起こすぞ」と決意表明したためにデフレが収まれば、その分実質金利が低下するのです。
第3ステップ 1~2年ぐらいのタイムラグで、消費・設備投資・輸出が増加する。
デフレが収まり実質金利が下がれば、消費や設備投資が増加します。デフレが収まると円安になるので、輸出が増加します。
第4ステップ 実体経済が改善される。
インフレになり、賃金も上昇します。株や不動産価格は上昇し、為替は円安になります。
この「市中に出回っているお金がどんどん増えれば、経済は良くなる」という理論が日本人になかなか理解されなかったので、この金融緩和策がなかなか実施されず日本は20年以上もデフレを脱却できなかったのです。
そもそも、インフレがなぜ必要なのか、なかなか理解されませんでした。敗戦後の超インフレの記憶があるので、日本人はインフレに悪いイメージを持っています。また、デフレになれば物価が安くなるので生活が楽になります。なぜデフレが悪いのかも分からないのです。
以下はひと続きのシリーズです。
10月4日 穏やかなインフレになれば、経済は自然に良くなっていく
10月6日 プラザ合意で、為替を本当の変動相場制にすることにした
10月7日 日本には、お金じゃぶじゃぶ政策しか残されていなかった
10月8日 お金じゃぶじゃぶ政策は、欧米では当たり前の政策だった
10月9日 19世紀末から20世紀前半は、金本位制が優れた制度だと考えられていた
10月11日 高橋是清は、経済は集団心理で動く、と理解していた
10月12日 経済は集団心理で動くのに、経済学はそれを数字で説明しようとする
10月13日 経済活動は、その民族の伝統的な考え方に大きく影響されている
10月14日 『男子の本懐』はデフレを深刻にした金本位制復活がテーマ
10月15日 2014年の消費税値上げにより、アベノミクスがとん挫した
10月17日 白川日銀総裁は、頑なに「お金じゃぶじゃぶ政策」を拒否した
10月18日 日銀がお金じゃぶじゃぶ政策を採用しなかったのは、国民が「日本はもう経済成長しなくても良い」と考えたから
10月19日 20年以上日本経済が停滞したのは、大乗仏教が原因