経団連(経済団体連合会)は一部上場の大企業が集まって作った団体ではありますが、共同して事業を行おうという営利のための組織ではありません。日本政府の経済政策に対して、財界から提言をするために作られました。
従って昨年11月に日本の財界合同訪中団が北京で李克強首相と対話したときも、支那が推進する一帯一路構想について質問し、その実情を理解するのが第一の務めです。その後に経団連で独自の分析を加え、日本政府に対して支那との経済関係について提言するのが筋です。もちろんその前提として、一帯一路構想の実情を正確・詳細に把握しておかなければなりません。
ところが経団連の榊原会長はそのプロセスをすっ飛ばし、李克強首相に「一帯一路に協力するから仕事をくれ」とやったわけです。自分の会社の売り込みをするなら、いったん東京に帰って経団連の仕事を片付けてから、東レという一流企業の経営者として改めて北京に出向き、支那政府と商売の交渉をすべきです。
いくら私企業の経営者だとは言っても、やって良いことと悪いことがあります。一帯一路は支那の野望がむき出しになった構想で、そんなものに巻き込まれたら日本はとんでもないことになります。従って東レの経営者としても、一帯一路に協力すべきではありません。
ジョン・スチュアート・ミルの『自由論』で説明したように、自由主義は一人前の判断力を持った者だけを対象にする考え方で、子供や未熟者には自由はありません。さらに言えば、「一人前の判断力を持った者」とは、「イエス・キリストを信じているまじめなキリスト教徒」という意味です。
キリスト教は隣人愛の教えを強調します。従って自由主義は、「仲間を助ける行為を自分の思い通りに行う」という考え方です。渋沢栄一は、自由主義に社会正義の考え方が含まれていることを知っていました。だから彼は、ビジネスを行う時に道徳を守らなければならない、と主張していました。彼はその主張を『論語と算盤』という著書で書いています。
経団連の榊原会長は、自由という言葉に社会正義が含まれていることを知らず、法律に抵触さえしていなければ儲けるためには何をしても良い、と考えているようです。支那政府が何百万人というウイグル人を弾圧しているという事実が世界中に明らかになりつつある今、支那に積極的に投資するのは、自分の企業を危うくするだけでなく、世界中から非難を浴びることになります。日本の経営者は今からでも考え直していただきたい。
以下はひと続きのシリーズです。
9月8日 渋沢栄一は、損得勘定だけで世の中を考えてはならない、と考えていた
9月9日 西郷隆盛は、もっと戦をしなくてはならない、と言っていた
9月10日 欧米を見聞した維新当時の指導者は、征韓論に反対した
9月13日 今の日本人は、経済的自由主義を正確に理解していない
9月15日 欧米のFreedomには、保護し教育するために強制する、という考えが含まれている
9月16日 明治時代の官営事業は、経済的自由主義に基づいている
9月17日 自由主義は、弱者と強者を同じ土俵で競争させるという考え方ではない
9月18日 ちゃんとした大人は好きなことをやって良い、というのが自由主義
9月20日 Freedomは昔から日本にあり、誠と呼ばれていた
9月21日 経営者団体の目的は、経済活動に関して政府に提言すること