Freedom(自由)及びその考え方の経済への応用である経済的自由主義が、本場である西欧ではどのようなものだと考えられていたのでしょうか。
明治5年(1872年)に中村正直は、『自由之理』を出版しました。この本は哲学書であるにもかかわらず多くの人に読まれ、「自由之理」という言葉が流行って公文書にも使われたほどでした。
この本は、ジョン・スチュアート・ミル(1806~1873年)が書いた『On Liberty』を翻訳したものです。ミルは、アダム・スミス(1723~1790年)以来のイギリスの自由主義の流れを汲む学者です。ミルの時代はまだ哲学と経済学が分かれていなかったので、彼は哲学書と経済学書の両方を書いています。
彼が書いた『On Liberty』を、明治初期に中村正直は『自由之理』というタイトルに訳して出版しましたが、今でも『自由論』というタイトルで続々と訳本が出版されています。『On Liberty』は自由主義の古典としての地位が確立しているのです。
今から『On Liberty』という哲学書の概要を説明していきます。
ミルは政府の役割をはっきりと規定しています。個人の幸福に最大の関心を持っているのは本人だから、自分の状況を本人が一番よく理解しています。従って、他人を侵害するようなことがないような個人的領域には、政府は干渉してはなりません。そのほうが良い結果が得られます。
その一方で、政府は他人に危害が及ぶのを防がなければなりません。国防や警察などが国家のやるべき領域です。
「他人を侵害しない限り、政府は個人の行動に干渉しない。個人の自由だ」というのが、消極的自由という考え方です。他人を侵害しなければ、どこに住んでも(居住の自由)、どのような職業に就いても(職業選択の自由)、どの宗教を信じても(信教の自由)構いません。
自由主義は、政府の役割を限定しようという考え方です。
以下はひと続きのシリーズです。
9月8日 渋沢栄一は、損得勘定だけで世の中を考えてはならない、と考えていた
9月9日 西郷隆盛は、もっと戦をしなくてはならない、と言っていた
9月10日 欧米を見聞した維新当時の指導者は、征韓論に反対した
9月13日 今の日本人は、経済的自由主義を正確に理解していない
9月15日 欧米のFreedomには、保護し教育するために強制する、という考えが含まれている
9月16日 明治時代の官営事業は、経済的自由主義に基づいている
9月17日 自由主義は、弱者と強者を同じ土俵で競争させるという考え方ではない
9月18日 ちゃんとした大人は好きなことをやって良い、というのが自由主義
9月20日 Freedomは昔から日本にあり、誠と呼ばれていた
9月21日 経営者団体の目的は、経済活動に関して政府に提言すること