自由主義は、成熟した判断力を持つ各人が幸福になろうとしてやっていることに政府は干渉しない、という考え方を採っています。各人のそれぞれが自分の幸福を最大限に増やそうと努力すれば、「神の見えざる手」によって、社会は良くなっていくということです。
各人の思う通りにさせたら、みんな他人を犠牲にして自分のためを図るので、社会は悪くなってしまうのではないか、という疑問が当然湧いてきます。しかし自由主義はその反対に、各人に思うことをさせた方がむしろ社会は良くなる、と考えています。
自由主義は、各人に好きなことをさせる、ということに制約条件を付けています。
1、他人に害を及ぼす行為は禁止する
2、子供や未開人など未成熟なものには自由を認めない
ちゃんとした大人にだけ自由を認めるということです。「では、ちゃんとした大人とはどういう人物か」ということが問題になります。この点についてミルは色々書いていますが、一言で言えば「イエス・キリストを信じている者」ということになります。
1、2、の条件をクリアーした者に対してのみ、自由を認めるのです。イエス・キリストを信じている自由人が自分を幸福にするために好きなことを行っていれば、社会全体がよくなるわけです。
このような考え方を「功利主義」と言っています。ジョン・スチュアート・ミルも功利主義に関する著作を何冊か書いています。「功利主義」という言葉は誤解されやすいですが、ミルは自分の利益だけを追求して良い、といっているわけではありません。英語のutilityを功利と訳してしまったのですが、utilityは「有用」というのが本来の意味です。
なぜ功利主義によって社会全体が良くなるのか、についてミルは二つの説明をしています。
一つ目は、「幸福を増大させる行為は正しい」ということです。川におぼれた人を助けたのであれば、礼金をあてにしてやったとしても結果的に正しいではないか、ということです。
何も、社会正義とか道徳を強調しなくても、社会を良くすることはできるわけです。
以下はひと続きのシリーズです。
9月8日 渋沢栄一は、損得勘定だけで世の中を考えてはならない、と考えていた
9月9日 西郷隆盛は、もっと戦をしなくてはならない、と言っていた
9月10日 欧米を見聞した維新当時の指導者は、征韓論に反対した
9月13日 今の日本人は、経済的自由主義を正確に理解していない
9月15日 欧米のFreedomには、保護し教育するために強制する、という考えが含まれている
9月16日 明治時代の官営事業は、経済的自由主義に基づいている
9月17日 自由主義は、弱者と強者を同じ土俵で競争させるという考え方ではない
9月18日 ちゃんとした大人は好きなことをやって良い、というのが自由主義
9月20日 Freedomは昔から日本にあり、誠と呼ばれていた
9月21日 経営者団体の目的は、経済活動に関して政府に提言すること