渋沢栄一は、産業界の枠組みを経済的自由主義の考えに基づいて整備したので、「日本資本主義の父」と呼ばれています。東京商法会議所(日本商工会議所)を設立したのも、その一例です。
栄一は、幕末の時点では尊王攘夷の志士で、かなり過激なこともしました。彼の一番の関心事は富国強兵策を実施して日本の独立を揺るぎないものにすることであって、個人的に富豪になることにはあまり関心がなかったようです。
彼はビジネスに抜群の才能が有り、500以上の企業の創業を行っています。だから三井・三菱をしのぐような大財閥を作ることもできたのですが、そのようなことには興味がなかったようです。
彼は幕末にフランスに行って1年以上滞在し、その間に経済的自由主義を勉強しました。従って、この思想が単に儲けることを勧めているのではなく、社会正義の実現という考え方が根底にあることを承知していました。このことが分かっていたからこそ、尊王攘夷の過激派から実業家に転身できたのです。
明治維新当時の日本人の多くは、経済的自由主義に社会正義の実現という発想があることを理解していました。だから経済的自由主義によって、富国強兵による国家の独立を実現しようと考えたのです。
ところが、Freedomという言葉に仏教用語の自由を訳語としてあてはめてしまったために、Freedomを「思うがままに振る舞ってよい」という意味だという誤解が徐々に広がってきました。今の日本人のほとんどは、自由と言う言葉に「イエス・キリストの隣人愛の教えを実践して、他人を助け社会に尽くそう」という信仰心が含まれていることを知らないでしょう。
経済的自由にしても、「キリスト教の隣人愛の教えを経済活動という分野で実践しよう」という考え方であることに、何人の日本人が気づいているでしょう。「経済的自由主義とは、儲けるために何をしても良い、という考え方だ。ただし法律の制約があるから、法だけは守らなければなければならない」と考えている人が大部分だと思います。
以下はひと続きのシリーズです。
9月8日 渋沢栄一は、損得勘定だけで世の中を考えてはならない、と考えていた
9月9日 西郷隆盛は、もっと戦をしなくてはならない、と言っていた
9月10日 欧米を見聞した維新当時の指導者は、征韓論に反対した
9月13日 今の日本人は、経済的自由主義を正確に理解していない
9月15日 欧米のFreedomには、保護し教育するために強制する、という考えが含まれている
9月16日 明治時代の官営事業は、経済的自由主義に基づいている
9月17日 自由主義は、弱者と強者を同じ土俵で競争させるという考え方ではない
9月18日 ちゃんとした大人は好きなことをやって良い、というのが自由主義
9月20日 Freedomは昔から日本にあり、誠と呼ばれていた
9月21日 経営者団体の目的は、経済活動に関して政府に提言すること