欧米のキリスト教社会で生まれたFreedom(自由)は、判断力の成熟した者のすることには干渉しないが、未熟で判断が十分できず力が弱い者に対しては強制をして成長させてやろう、という二つの考え方が一緒になったものです。
Freedomがこのような考え方であるため、これを経済活動に応用した経済的自由主義にも二つの考え方があります。明治初期の日本政府は経済的自由主義に基づいて経済運営を行うことを決めていました。従って、具体的な政策も経済的自由主義で説明できるはずです。
明治になったばかりの時の日本の産業は非常にひ弱で、国富も貧弱でした。この状態では軍事のために多くの費用を使えず、欧米列強の軍事的圧力に対抗できません。そこで何よりも産業を育成して国を豊かにしなければなりませんでした。
ところが欧米列強と結んだ不平等条約によって、日本には関税自主権がありませんでした。関税は直接的には、商品やサービスの輸出入の際に税金を課して国庫を豊かにする仕組みですが、本当の目的は別にあります。
国内の産業の競争力が弱く輸入品に価格的に対抗できないとき、関税率を高くして国内産業を保護するのが主目的です。ところが日本は不平等条約によって自由に関税率を決められず、自国のひ弱な産業を保護することができませんでした。
そこで政府は、自由主義の中の弱者に対する考え方を日本の産業界に適用しました。成熟し力も十分ある一人前の者に対しては、政府は干渉せず自主的な行動に任せます。しかし未熟で力もない弱者に対しては、政府は干渉して育てなければなりません。
明治政府は、ひ弱な産業部門に対して強力に干渉し、それを育てることにしました。当時の民間業者には、資金も技術もありませんでした。そこで政府は税金を投入して国営企業を設立し、設備を欧米から購入し、外国人技術者を高給で招いて日本人に技術指導をさせました。
これが官営事業です。経済的自由主義を、民間企業どうしの競争に任せ政府は干渉しないという考え方だとだけ理解していると、明治政府が経済的自由主義を政策として掲げたということが理解できなくなります。
以下はひと続きのシリーズです。
9月8日 渋沢栄一は、損得勘定だけで世の中を考えてはならない、と考えていた
9月9日 西郷隆盛は、もっと戦をしなくてはならない、と言っていた
9月10日 欧米を見聞した維新当時の指導者は、征韓論に反対した
9月13日 今の日本人は、経済的自由主義を正確に理解していない
9月15日 欧米のFreedomには、保護し教育するために強制する、という考えが含まれている
9月16日 明治時代の官営事業は、経済的自由主義に基づいている
9月17日 自由主義は、弱者と強者を同じ土俵で競争させるという考え方ではない
9月18日 ちゃんとした大人は好きなことをやって良い、というのが自由主義
9月20日 Freedomは昔から日本にあり、誠と呼ばれていた
9月21日 経営者団体の目的は、経済活動に関して政府に提言すること