第一次世界大戦後のドイツでは、マルクス系の社会主義思想に染まった労働組合の勢力が強くなり、熟練労働者の賃金が中産階級より高くなるケースが出てきて、中産階級の嫉妬と不満が高くなりました。
中産階級は、以前のような社会的地位に戻ろうとして、ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)を中心として結束し、労働組合を地盤としていたマルクス系の社会主義政党と政権の座を目指して激しく争いました。ナチスが権力を掌握したことを、「中産階級の革命」と説明することもできます。ドイツだけでなく第二次世界大戦の前の西欧諸国は、国家社会主義政党の勢力が勢力を伸ばしていたのです。
また、この頃西欧で社会主義の勢力が増大したのには、もう一つの理由があります。労働組合と企業が癒着して競争を排除し、市場を独占しようという動きが強くなったことです。
日本の労働組合は、「トヨタ自動車労働組合」など企業別になっています。ところが西欧の組合は産業別になっています。例えばドイツでは、自動車産業で働く労働者はみんなIGメタルという組合に所属しています。VWやメルセデス・ベンツなどの自動車会社は、必要な労働者の派遣をIGメタルと交渉するのです。
VWとベンツの二社で自動車市場を独占しようとしたら、割と簡単にできます。VWとベンツがIGメタルと交渉して、労働者の賃金を上げる代わりに、IGメタルはこの二社に優先的に労働者を派遣することを約束させるのです。IGメタルが、この二社以外には優秀な労働者を必要数だけ派遣しなかったら、他の自動車会社は太刀打ちできません。
結果的に、VWとベンツは製品の価格を上げて儲かり、IGメタルの組合員の労働者の賃金は上がります。そうして一般の消費者は高い製品を買わされるわけです。
市場を独占するときには、「「過当競争による品質の低下が防げる」「参入会社を制限した方が、設備や研究費の重複を防げ、結果的に効率が良くなる」など、国民みんなの利益になるという説明をします。大企業や労働組合は、「自分たちの独占が国家に利益をもたらす」と政府を説得して、その政策を行政化するわけです。
以下はひと続きのシリーズです。
11月30日 大恐慌後、国際貿易は高関税政策によって半減した
12月1日 ヒトラーは、公共投資を大規模に行って経済を立て直した
12月3日 社会主義というのは、何が正しいかを国家が決める、という考え方
12月14日 プロイセンは、国民を一人前の市民として扱わなければならなくなった
12月19日 マルクスは、ヘーゲル哲学を進化させて社会主義思想を生み出した
12月21日 労働組合所属の熟練労働者の賃金が、中産階級より高くなった
12月24日 大企業と組合は、社会主義の考え方を利用して市場の独占を図った
12月26日 ドイツはもともと社会主義思想が強かったから、ヒトラーは公共投資をできた