「何が正しいかは、上から与えられるから、各人はそれに従わなければならない」という社会主義の考え方はドイツで発達しました。ドイツ哲学には、ヘーゲル → フォイエルバッハ → 社会主義思想、という流れがあります。つまり、ヘーゲル哲学が変化して社会主義思想になっていったのです。
ヘーゲル(1770年~1831年)は、ドイツのプロイセン王国の偉い哲学者ですが、「大きいものは小さいものより偉い」と考えていました。そしてこの理屈を説明するために、「弁証法」を使いました。
個人が何人か集まって家族を構成します。各個人はそれぞれに違い、互いに「矛盾」しているのですが、それが弁証法のややこしい理屈によって「アウフヘーベン(止揚、統合されて矛盾が解消されること)」されて、家族という個人よりも大きなものを作ります。その場合、個人よりも家族の方が偉いのです。
互いに異なる家族が集まると、またアウフヘーベンが起きて、家族より偉い村ができます。このようにして村より偉い地方ができ、地方より偉い国家が出来ます。ヘーゲルが生きていた時代は国連などと言うものはなく、国家がもっとも大きな単位でした。
国家は、理性的ですべてに正しい判断をします。だから各個人は国家の考えを素直に受け入れ、それに従うべきなのです。ヘーゲルは、「国家の意志に従うことが、まさにFreedomだ」とまで言っています。ヘーゲルのこの言葉は、国家をキリスト教の神と読み替えることにより理解できます。
人間がイエスを信じると、イエスは神にその人間を推薦します。そうしたら神は自分の息に自分の魂を含ませて、人間に吹き付けます。風に乗って人間の心に到達した神の魂はその人間の心に付着します。そうしたら人間の心は神と同じように清く正しくなります。以後その人間は、神の意志を自分の意志として行動するようになります。これがFreedomという考え方です。
これと同じように、国家の魂という清く正しい魂を自分の心に取り込んだ人間は、国家の意志を自分の意志として行動するようになります。このような状態をヘーゲルは、Freedomと言ったのです。
以下はひと続きのシリーズです。
11月30日 大恐慌後、国際貿易は高関税政策によって半減した
12月1日 ヒトラーは、公共投資を大規模に行って経済を立て直した
12月3日 社会主義というのは、何が正しいかを国家が決める、という考え方
12月14日 プロイセンは、国民を一人前の市民として扱わなければならなくなった
12月19日 マルクスは、ヘーゲル哲学を進化させて社会主義思想を生み出した
12月21日 労働組合所属の熟練労働者の賃金が、中産階級より高くなった
12月24日 大企業と組合は、社会主義の考え方を利用して市場の独占を図った
12月26日 ドイツはもともと社会主義思想が強かったから、ヒトラーは公共投資をできた