マルクスは、ヘーゲル哲学の流れを受け継いで、「各個人は勝手なことをせずに、上の方から与えられた正しい判断に従え」という哲学的な主張しました。これとは別に、「労働者は資本家に搾取されている。私有財産を廃止して、階級のない平等の社会を作ろう」という経済学的な主張もしました。この全く別の二つの主張が組み合わされて、マルクスの社会主義思想ができたのです。
マルクスの思想は、西欧だけでなく世界中に広がり極めて大きな影響力を持つようになったために、多くの人は「社会主義思想は私有財産を否定する思想だ」と思っています。しかし私有財産の否定はマルクス独特の主張であって、本来の社会主義思想とは別なのです。
19世紀後半から20世紀にかけて、マルクスの社会主義思想が労働組合運動の主流になり、「労働者は搾取されている。組合活動を強力に行って賃上げを勝ち取ろう」ということになっていきました。
労働組合は、労働者であれば誰でも入れるわけではありません。高度な技能を持った高給取りの熟練労働者しか普通は入れません。何の技術もない未熟練労働者がストライキをしても資本家は困らず、別の未熟練労働者を雇うだけです。未熟練労働者は労働組合の結束を乱すので、むしろ邪魔な存在なのです。これは今の日本にも当てはまり、大企業の組合に加入できるとは正規の社員だけという例が多いです。
高給取りの熟練労働者を組合員にした労働組合が、マルクスの社会主義を掲げてストライキを行って賃上げを獲得していきました。労働組合に所属する熟練労働者の賃金がどんどん上昇したため、組合員の「労働貴族化」という現象が起きました。
彼らの賃金は未熟練労働者と比較にならないほど高くなり、両者には同じ労働者だという仲間意識がなくなりました。さらに「労働貴族」の賃金は、伝統的な中産階級(自営業者・事務所のホワイトカラー・官吏など)よりも高くなりました。
そのために、高い教育を受けたのに労働貴族より賃金の安い伝統的な中産階級の嫉妬と不満がしだいに大きくなっていきました。彼らはマルクスの社会主義に反発し、自分たちの伝統的な社会的地位をなんとか回復しようとしました。
以下はひと続きのシリーズです。
11月30日 大恐慌後、国際貿易は高関税政策によって半減した
12月1日 ヒトラーは、公共投資を大規模に行って経済を立て直した
12月3日 社会主義というのは、何が正しいかを国家が決める、という考え方
12月14日 プロイセンは、国民を一人前の市民として扱わなければならなくなった
12月19日 マルクスは、ヘーゲル哲学を進化させて社会主義思想を生み出した
12月21日 労働組合所属の熟練労働者の賃金が、中産階級より高くなった
12月24日 大企業と組合は、社会主義の考え方を利用して市場の独占を図った
12月26日 ドイツはもともと社会主義思想が強かったから、ヒトラーは公共投資をできた