キリスト教の神を前面に押し出した元々のFreedomの考え方には、人を助ける為であれば社会の法律やルールを無視しても良いという消極的な自由(出版の自由など ~からの自由)の考え方がありますが、ヘーゲルはこの点を述べるだけでなく、清く正しい国家の意志に従え、という積極的自由の側面を重視しました。
ヘーゲル哲学は支配層に好都合なだけではなく、神を前面に出さないので知識層にも人気がありヨーロッパ中に普及しました。その中でもとりわけ、ドイツとロシアで人気がありました。19世紀ロシア人の多くが、ドイツに留学し様々な科学と共にヘーゲル哲学を学んで帰国しました。この時期のロシア小説を読むと、ドイツ帰りの貴族が、サロンでヘーゲル哲学を語っている場面が多く出てきます。
社会主義思想のボスであるマルクスはドイツ生まれであり、社会主義革命は最初にロシアで起きました。どちらの国もヘーゲル哲学が普及していたのは、偶然の一致ではありません。ヘーゲル哲学が社会主義を生み出したのだから、当然のことなのです。
ヘーゲル哲学を受け継いだのが、フォイエルバッハ(1804年~1872年)という哲学者です。そしてフォイエルバッハの哲学を受け継いだのが、あの有名なカール・マルクス(1818年~1883年)です。
ヘーゲルは、「高い所にいる存在が人間に、何が正しいかを指し示す。人間はそれに従えば良いのだ」と考えました。彼の場合、「高い所にいる存在」とは国家のことでした。マルクスは、「高い所にいる存在」とは「歴史の法則」のことだと解釈を変えました。
人類の社会は、原始時代から封建制度に進み、さらに資本主義の時代に進歩しました。そしていつか必ず、資本主義社会は革命によって覆され、理想的な社会主義の社会ができて、人間は幸せになる、とマルクスは考えました。
従って人間は、人類の歴史の最終的な到達点である社会主義の思想に従えば幸せになれるのです。社会主義の考え方をよく理解しているのは国家の指導者のはずだから、国民は彼に従えば良いのです。このような理屈の裏付けがあったので、スターリンは絶大な権力を振るうことができました。
以下はひと続きのシリーズです。
11月30日 大恐慌後、国際貿易は高関税政策によって半減した
12月1日 ヒトラーは、公共投資を大規模に行って経済を立て直した
12月3日 社会主義というのは、何が正しいかを国家が決める、という考え方
12月14日 プロイセンは、国民を一人前の市民として扱わなければならなくなった
12月19日 マルクスは、ヘーゲル哲学を進化させて社会主義思想を生み出した
12月21日 労働組合所属の熟練労働者の賃金が、中産階級より高くなった
12月24日 大企業と組合は、社会主義の考え方を利用して市場の独占を図った
12月26日 ドイツはもともと社会主義思想が強かったから、ヒトラーは公共投資をできた