多くの人は、マルクスが主張した考え方が社会主義なのだ、と思っています。即ち私有財産を否定し、国家を否定し民族や人種の違いを認めないグローバリズムを社会主義だと思っています。
このような考え方を前提にすれば、私有財産を認め、民族主義を前面に押し出しているナチスは、確かに社会主義ではありません。しかし、ナチスは自分たちのことを社会主義政党だ、と考えていました。
ソ連はマルクスの理想通り、私有財産を廃止した上に、国家を否定し民族や人種の違いを認めないグローバル主義を採っていましたが、やがてグローバル主義を放棄し自国の利益を図る民族国家になってしまいました。社会主義を採用した国家は、いつの間にか民族主義になってしまうのです。
このように、私有財産を廃止するとか、国家や民族を認めないということは、社会主義の条件ではありません。社会主義とは、「正しいことは上から与えられるから、各人はそれに従わなければならない」という考え方のことです。
ヒトラーは、「失業者を救済するために公共事業を行うことは正しい。国家が正しい判断をしたのだから、国民はそれに従わなければならない」と考えました。ヒトラーが行った統制経済は、まさしく社会主義の政策です。
マルクスが主張した社会主義もドイツのナチスも、「正しいことは上から与えられるから、各人はそれに従わなければならない」という考え方で共通しており、基本的には同じ思想です。
第一次世界大戦で敗北し経済的に困窮したドイツでは、マルクス式の社会主義とナチスという二種類の社会主義の勢力が急伸しました。この二つは激しく勢力争いをし、人材の争奪合戦を行いました。
その時、政治に無関心な者を自党に入れるのは難しかったのですが、お互いに相手の党の党員を引き抜くのは簡単にできました。この事からも、マルクス式の社会主義者とナチスの国家社会主義者のメンタリティーが極めて近かったということが分かります。
以下はひと続きのシリーズです。
11月30日 大恐慌後、国際貿易は高関税政策によって半減した
12月1日 ヒトラーは、公共投資を大規模に行って経済を立て直した
12月3日 社会主義というのは、何が正しいかを国家が決める、という考え方
12月14日 プロイセンは、国民を一人前の市民として扱わなければならなくなった
12月19日 マルクスは、ヘーゲル哲学を進化させて社会主義思想を生み出した
12月21日 労働組合所属の熟練労働者の賃金が、中産階級より高くなった
12月24日 大企業と組合は、社会主義の考え方を利用して市場の独占を図った
12月26日 ドイツはもともと社会主義思想が強かったから、ヒトラーは公共投資をできた