大恐慌後の1930年代、ソ連やドイツの経済は非常に好調でした。ソ連は生産手段をすべて国有化し、どのような製品をどれだけ作るのかということを国家が決めていました。
ドイツは資本主義国のままでしたから生産手段の国有化はされず私企業が生産活動をしていましたが、主要な産業においては、私企業が自主的に経営を行うことを許さず、国家が建てた計画に従わせました。
ソ連とドイツに共通しているのは、政府は市場に介入しないという自由主義経済の原則を放棄し、政府が経済活動に大きな役割を果たすという計画経済・統制経済政策を採ったという点です。
自由主義経済と計画経済・統制経済の違いは、単に政府が経済活動に介入するのかしないのか、という技術的なことだけではありません。社会や人間に対する考え方がそもそも違います。
欧米の自由主義経済は、各人はまじめなキリスト教徒であり、社会のためになることをする、という前提に立っています。その上で、何が社会のためになるかという決まった基準があるわけではなく、、自分の考えに従って経済活動をすれば良い、と考えます。それでも社会はうまく回っていく、というのです。
例えば、天候不順で大豆が不作になり価格が高騰して、豆腐屋や納豆屋の経営が苦しくなったとします。農家は、別の野菜を作るのをやめて大豆を栽培する義務はありません。しかし、作れば儲かるので農家は当然大豆を栽培します。大豆不足を解消するために大豆を栽培することは、隣人愛にも合致します。また商社は、アメリカから大量に大豆を買い付けるので、大豆の価格は元に戻っていきます。
一方、計画経済・統制経済は、正しいことは上から与えられるから、各人はそれに従わなければならない、と考えます。政府は農家に大豆の増産を命令し、豆腐屋や納豆屋に向かっては、製品の生産を減らすように命令します。
実は、この考え方が社会主義です。従ってソ連だけでなく、ナチス・ドイツも社会主義国家だったのです。ナチスの正式名称は、「国家社会主義ドイツ労働者党」です。彼ら自身、自分たちのことを社会主義者だと思っていました。
以下はひと続きのシリーズです。
11月30日 大恐慌後、国際貿易は高関税政策によって半減した
12月1日 ヒトラーは、公共投資を大規模に行って経済を立て直した
12月3日 社会主義というのは、何が正しいかを国家が決める、という考え方
12月14日 プロイセンは、国民を一人前の市民として扱わなければならなくなった
12月19日 マルクスは、ヘーゲル哲学を進化させて社会主義思想を生み出した
12月21日 労働組合所属の熟練労働者の賃金が、中産階級より高くなった
12月24日 大企業と組合は、社会主義の考え方を利用して市場の独占を図った
12月26日 ドイツはもともと社会主義思想が強かったから、ヒトラーは公共投資をできた