ナポレオンの軍隊に大敗北し、領土を半分に減らされた上にフランスの従属国にされてしまったプロイセンは、国政を改革し独立を回復しようとしました。そのために、まずは政府の方が従来の専制的な態度を改めて国民の方に歩み寄り、国家の再建に協力してもらわなければなりません。そのためにプロイセン政府は、国民にFreedomの権利を保障して、彼らを一人前の市民として扱うことにしました。
近代社会は、Freedomの考え方の上に作られます。明治維新後の日本はそのことを理解していたので、文明開化を推進し、大日本帝国憲法を制定して国民にFreedom (自由)と平等を保障しました。プロイセンは日本がやったのと同じことを、日本よりも60年前にはじめたのです。
このようにFreedomは大事な考え方ですが、時によっては革命の原理にもなります。そこでプロイセン政府は、Freedomについての穏健・保守的な解釈を国民の間に普及させようとしました。
政府が「政府公式見解」という形で露骨にFreedomの解釈を国民に押し付けても反発を招くだけなので、穏健な学者の学説があればその方が好都合です。そしてヘーゲル先生の説が、それにピッタリだったのです。
プロイセンの国民はキリスト教徒なので、Freedomはキリスト教に基礎を置くものでなければ国民の理解を得られません。その一方で、啓蒙思想によってキリスト教の信仰を古臭いとバカにする知識人もいたので、キリスト教を正面に出すこともできません。ヘーゲルの哲学は、キリスト教の神には触れず、その代わりに国家を持ち出したので、この点でも好都合でした。
ヘーゲルは、国家は神と同じような存在で、何でも知っていて清く正しい存在だ、と考えていました。だから、ヘーゲル哲学の国家という概念をキリスト教の神に置き換えれば、そのまま伝統的なFreedomの考え方になります。
以下はひと続きのシリーズです。
11月30日 大恐慌後、国際貿易は高関税政策によって半減した
12月1日 ヒトラーは、公共投資を大規模に行って経済を立て直した
12月3日 社会主義というのは、何が正しいかを国家が決める、という考え方
12月14日 プロイセンは、国民を一人前の市民として扱わなければならなくなった
12月19日 マルクスは、ヘーゲル哲学を進化させて社会主義思想を生み出した
12月21日 労働組合所属の熟練労働者の賃金が、中産階級より高くなった
12月24日 大企業と組合は、社会主義の考え方を利用して市場の独占を図った
12月26日 ドイツはもともと社会主義思想が強かったから、ヒトラーは公共投資をできた