10年以上前に政府は「テロ等準備罪」を新設する検討をはじめました。組織的な凶悪犯罪が増えてきたためにその対処が必要になってきたからですが、国際的な組織犯罪を防止しようという条約を実施するためにも必要だったからです。
2000年に国連で「国際組織犯罪防止条約」が採択され、日本を含めたほとんどの主要国が採択しました。しかし日本の刑法は個人しか対象とせず、組織が犯罪を行うことに対処できていませんでした。そこで日本は条約に署名はしたのですが、国会で正式に批准できない状況が続いていたのです。
国内法が不備なためにこの条約を批准できない国は、日本以外はパラオ・ツバル・ブータンなど弱小な10カ国だけで、国際的に非常にまずい状態でした。
テロ等準備罪を新設する法案は、過去に3回も野党などの反対で廃案になり、そのうちに民主党が政権をとったりしたことから、なかなか可決されませんでした。2017年にやっと「組織犯罪処罰法」という法律の中に、「組織的な犯罪の共謀」という条項を追加することで、テロ等準備罪を新設することができました。国際的な反捕鯨団体である「シー・シェパード」は、日本がテロ等準備罪を新設したため、「以後、活動が出来なくなる」として解散しました。
この法律は、277の組織的犯罪に限って適用されるもので、犯行の準備をした段階で逮捕できるという内容です。犯行に使う道具を用意したり、犯行予定場所を下見したりする行為が、「準備」にあたります。
この法案に関しては、野党だけでなく多くの憲法・刑法学者が反対をしていました。反対の理由は種々挙げられていますが、「国家は悪いことをするから、強力な力を与えてはならない」という意見に集約できます。
いまの日本には、権力者が悪いことをしようとしたら彼を権力の場から引きずりおろすことのできる仕組みがさまざまに用意されているにもかかわらず、その仕組みを信用せずに頭から「国家は悪いことをする」と思い込んでいる者が多数います。
以下はひと続きのシリーズです。
11月20日 若いときに出家するという習慣は、仏教から始まった
11月22日 出家は、もともとは家も友人も持たない厳しいもの
11月24日 今の日本の社会問題の多くは、神道と仏教の使い分け原則が崩れたことに原因がある
11月25日 FreedomとEqualityの訳語に仏教用語を使ったために、使い分けの伝統が崩れた
11月26日 神道と仏教との使い分けが崩れたために、「国家は悪いことをする」という考えが広まった
11月27日 仏教は、無理してものを捨てなくても良い、と教義を次第に甘くしていった
11月28日 仏教は、欲望を抑えきれない凡人が戦争を起こす、と考える
11月29日 権力を監視するのが憲法の役割、という考え方をマスコミは悪用した
12月1日 欧米には、国家を監視しなければならない、という発想がある
12月2日 欧米人が考えていたのは、「国家は悪いことをする」ではなく、「権力者は悪いことをする」
12月3日 マスコミは、「国家は悪いことをする」と思い込んでいる
12月4日 マスコミが権力を監視することは非合法であり、不要である
12月5日 地下鉄サリン事件やテロ事件によって、テロ等準備罪の必要性が高まった
12月6日 「国家は悪いことをする」と思い込んだ者たちは、テロ等準備罪に反対した
12月7日 「国家は悪いことをする」という発想が「安倍政治を許さない」を生んだ
12月8日 「国家は悪いことをする」と思い込んでいる者も、一種の愛国者