権力を監視するのが憲法の役割、という考え方をマスコミは悪用した

「国家は悪いことをする」という考え方から、奇妙な社会現象が起きます。その一つが、「マスコミが国家を監視する」という考え方です。昔からマスコミは、「立法、行政、裁判と並ぶ第四の権力だ」と言われてきました。マスコミの世論形成に対する影響力の大きさから、比喩としてこのように言われてきたわけです。

ところが最近は、「第四の権力」という言葉とは別に、「権力を監視する」ということが良く言われるようになりました。以前は、このような言葉はなかったように思います。おそらく10年ぐらい前からこのような言葉が使われるようになったのではないでしょうか。

この言葉が使われ始めた時は、憲法との関連で使われていました。「憲法の役割は国家を監視することだ」という前提からスタートして、「権力が憲法違反をすることをマスコミが監視する」という理屈でした。それが次第に「憲法」が抜けて、「マスコミが権力を監視する」というようになりました。

「憲法の役割は権力を監視することだ」と言い出したのは小室直樹先生(1932~2010年)だった、と私は記憶しています。ご存じの方も多いと思いますが、小室先生は大変な経歴をお持ちです。

京都大学理学部数学科卒、大阪大学大学院経済学研究科卒、フルブライト奨学金を得てミシガン大学大学院で計量経済学を学ぶ。その後ハーバード大学大学院で心理学と社会学を学び、マサチューセッツ工科大学大学院で理論経済学を学ぶ。帰国後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程を修了。東京大学法学博士。

このような立派な学歴を持っているにもかかわらず、有名大学の正規の教授に就任せず在野の学者を通していました。この大先生が、「憲法は権力を監視するのが役目だ」と主張したので、マスコミや野党が「権力を監視する憲法を守ろう」と護憲運動に利用し始めたのです。

もしも小室先生が存命ならば、「マスコミは権力を監視する固有の権限を持っている、などとふざけたことを言うな」と怒鳴りつけただろうと思います。しかし先生は8年前に亡くなったので、死人に口なしとなってしまいました。

以下はひと続きのシリーズです。

11月19日 キリスト教・神道と仏教は目的が正反対

11月20日 若いときに出家するという習慣は、仏教から始まった

11月21日 おしゃか様の出家生活は、すさまじかった

11月22日 出家は、もともとは家も友人も持たない厳しいもの

11月23日 仏教は世界的に見ると、勢力は弱い

11月24日 今の日本の社会問題の多くは、神道と仏教の使い分け原則が崩れたことに原因がある

11月25日 FreedomとEqualityの訳語に仏教用語を使ったために、使い分けの伝統が崩れた

11月26日 神道と仏教との使い分けが崩れたために、「国家は悪いことをする」という考えが広まった

11月27日 仏教は、無理してものを捨てなくても良い、と教義を次第に甘くしていった

11月28日 仏教は、欲望を抑えきれない凡人が戦争を起こす、と考える

11月29日 権力を監視するのが憲法の役割、という考え方をマスコミは悪用した

11月30日 憲法に違反することが出来るのは、国家だけ

12月1日 欧米には、国家を監視しなければならない、という発想がある

12月2日 欧米人が考えていたのは、「国家は悪いことをする」ではなく、「権力者は悪いことをする」

12月3日 マスコミは、「国家は悪いことをする」と思い込んでいる

12月4日 マスコミが権力を監視することは非合法であり、不要である

12月5日 地下鉄サリン事件やテロ事件によって、テロ等準備罪の必要性が高まった

12月6日 「国家は悪いことをする」と思い込んだ者たちは、テロ等準備罪に反対した

12月7日 「国家は悪いことをする」という発想が「安倍政治を許さない」を生んだ

12月8日 「国家は悪いことをする」と思い込んでいる者も、一種の愛国者

12月9日 刑事事件の被告は、国家権力からいじめられている者

12月10日 支那や朝鮮が行った残虐行為に言及しない