地下鉄サリン事件やテロ事件によって、テロ等準備罪の必要性が高まった

伝統的な刑法は、実際に犯罪を行った個人のみを罰するというのが原則で、対象を狭く限定しています。この考え方では、企業やテロ集団などの組織を罰することができません。しかたがないので、その組織に属する個人の犯罪を立証して罰するしかありませんが、実際の立証は非常に難しいです。

例えば、2005年にJR西日本株式会社の福知山線で脱線事故があり、たくさんの方が亡くなりました。JR西日本は乗客を時間通りに運ぶことを優先し、朝の通勤時間帯に運転手がスピード違反をするのを前提とした過密な運行スケジュールを組んでいました。

これはJR西日本という企業が犯した犯罪なのですが、現行の刑法は企業を罰することができないので、検察官たちは社長などの責任者個人の犯罪を立証しようとしました。しかし大企業の社長は「列車を遅れないように運行せよ」などと言うだけで、具体的なことは指示しません。結局社長などの経営者の関与を立証できず、彼らは無罪になりました。

また、現行の刑法では犯罪を実際に実行しなければ罪に問えません。誰でも「あいつを殺してやりたい」と思ったことはあるはずで、心の中で思い描いただけで犯罪者扱いをするというのも、無理があります。

ストーカー事件など、女性が危険を感じる状態でも警察は動けず、ストーカーに警告を発することぐらいしかできません。「実際に殺人が起きるまでは、警察は守ってくれない」のです。

地下鉄サリン事件や欧米での無差別テロなど、犯罪組織が行うテロによって多くの人が死傷するようになりました。現行刑法の原則である「罰するのは個人だけ」「現実に犯罪が行われてから取締りをはじめる」では、国民の安全を十分に確保できない状況になってしまいました。

そこで10年以上前から、「テロ等準備罪」という犯罪を新たに認定し取り締まろうという動きが出てきました。これはテロ組織などが大規模で危険の大きな犯罪を企んでいる時は、「現実に犯罪が行われてから取り締まる」という原則を捨てて、犯罪を計画している段階で逮捕できるようにする法律です。

以下はひと続きのシリーズです。

11月19日 キリスト教・神道と仏教は目的が正反対

11月20日 若いときに出家するという習慣は、仏教から始まった

11月21日 おしゃか様の出家生活は、すさまじかった

11月22日 出家は、もともとは家も友人も持たない厳しいもの

11月23日 仏教は世界的に見ると、勢力は弱い

11月24日 今の日本の社会問題の多くは、神道と仏教の使い分け原則が崩れたことに原因がある

11月25日 FreedomとEqualityの訳語に仏教用語を使ったために、使い分けの伝統が崩れた

11月26日 神道と仏教との使い分けが崩れたために、「国家は悪いことをする」という考えが広まった

11月27日 仏教は、無理してものを捨てなくても良い、と教義を次第に甘くしていった

11月28日 仏教は、欲望を抑えきれない凡人が戦争を起こす、と考える

11月29日 権力を監視するのが憲法の役割、という考え方をマスコミは悪用した

11月30日 憲法に違反することが出来るのは、国家だけ

12月1日 欧米には、国家を監視しなければならない、という発想がある

12月2日 欧米人が考えていたのは、「国家は悪いことをする」ではなく、「権力者は悪いことをする」

12月3日 マスコミは、「国家は悪いことをする」と思い込んでいる

12月4日 マスコミが権力を監視することは非合法であり、不要である

12月5日 地下鉄サリン事件やテロ事件によって、テロ等準備罪の必要性が高まった

12月6日 「国家は悪いことをする」と思い込んだ者たちは、テロ等準備罪に反対した

12月7日 「国家は悪いことをする」という発想が「安倍政治を許さない」を生んだ

12月8日 「国家は悪いことをする」と思い込んでいる者も、一種の愛国者

12月9日 刑事事件の被告は、国家権力からいじめられている者

12月10日 支那や朝鮮が行った残虐行為に言及しない