身内も習近平の暴走を諫める

習近平は1953年6月15日生まれなので、1966年に文革が始まった時は13歳でした。文革が始まって、彼が通っていた中学校は閉鎖されました。

彼の父親の習仲勲は、中国共産党の大幹部だったので、文革で失脚し、息子の習近平も紅衛兵につるし上げられ、4回も投獄されています。さらに16歳の時から7年間、陝西省の田舎に下放されました。つまり彼の基礎教育は、中学一年で終わっているのです。

文革後に父親が復権したので、習近平も20歳を何年か過ぎてから、無試験で精華大学に入り、化学と法学を学びました。しかし、習近平を大学のキャンパスで見かけたことがないとか、論文は代筆によるものだという噂が根強くあります。一方、習近平のライバルである李克強は、普通の家庭の出身です。同じ時期に田舎に下放されましたが、文革後に入学試験に合格して北京大学に入学した非常な秀才です。

習近平は無学だ、とよく言われます。実質的な教育が中学校一年で終わっているし、ライバルの李克強と比べられるからですが、毛沢東を崇拝していることも理由の一つです。習近平自身が文革によって痛めつけられたし、父親もひどい目に遭っているので、毛沢東を嫌っても不思議ではありません。ところが本当に習近平が毛沢東を崇拝しているので、教養がない証拠だ、と思われているのです。

毛沢東は、『海瑞罷官』という京劇を攻撃することで文革を始めた、ということを以前書きました。この脚本を書いたのが呉晗(ご・かん)という清華大学教授で、有名な文化人でした。

「この脚本は毛沢東思想に反する。脚本を書いた呉晗はとんでもない人物だ」という激烈な非難が突如、新聞に掲載されました。これを書いたのが江青(毛沢東の妻)の仲間だった姚文元という無名の青年でした。毛沢東は、この論文を全国の新聞に掲載するように指示しました。つまり、姚文元の背後には、江青がおり、さらにその後ろには毛沢東がいたということです。

実は、習近平もこれと同じように、手下を使って文化人を攻撃しています。8月末に、李光満という無名の人物が、「李光満氷点時評」という個人ブログに、「誰でも感じ取れる、深刻な変革がいま進行している」という記事を載せました。その文章を、人民日報や国営新華社通信、CCTVなどの国営メディアが一斉に、公式サイトに転載したのです。

国営の巨大メディアが、無名のブロガーの文章を一斉に転載するのは異例で、習近平サイドから指示があったのは間違いありません。これは、習近平が「第二の文化大革命宣言」をした、と解釈できます。

そのブログは、ヴィッキー・チャオのなどの芸能人の脱税事件を挙げて「芸能界や文化界が腐りきっている」と非難しています。次に、アリババやディディなどのIT企業の不正を批難し、習近平の共同富裕の政策を称賛しています。

「中国では大きな変化が起きている。それは経済領域・金融領域・文化領域・政治領域などのあらゆる分野で大きな変革が生まれている。それは革命と言うべきだ。それは資本集団からの人民群衆への回帰であり、資本中心から人民中心への回帰である。従ってそれは政治的変革であり、人民は再び変革の主体となっている」、という具合です。

この習近平の「第二の文化大革命宣言」は、いまのところ大きな抵抗を受けています。「李光満氷点時評」に対して、環球時報という国営マスコミの胡錫進という編集長が、「習近平が行っている政策は革命ではない」という正反対の意見をSNSに投稿しました。環球時報は人民日報の子会社で、国営新聞社です。そして、胡錫進は日本のマスコミも言及するほどの有名人です。

人民日報と環球時報という二つの国営のマスコミの間で意見の対立が起きているわけで、これは習近平と彼に反対する共産党の幹部の間で闘争が始まり、人民日報や環球時報などの国営マスコミがその手先になっている、というように理解できます。

9月に入って、劉鶴という共産党の大幹部が演説をしました。「民営企業は、中国のGDPの60%、技術革新の70%、都市部の雇用の90%を創出している。民営企業の発展を支持し、企業の財産を保護する」という内容です。李光満の「資本中心から人民中心への革命」を否定しています。

劉鶴は、中国共産党の最高幹部である中央政治局委員で、党内の序列は10番目ぐらいです。彼はハーバード大学を卒業した経済の専門家で、経済政策の最高責任者です。経済の最高責任者は公式には、国務院総理の李克強ですが、習近平が李克強を嫌って、その権限を取り上げ、劉鶴に任せているわけです。

つまり劉鶴は、習近平に信頼されている経済政策の最高責任者です。それが習近平の始めた革命路線に反対を唱えたわけです。これは、習近平の反対派に寝返ったということではなく、忠臣として強く諫めている、ということのような気がします。

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