人は今の生活を破壊されたくない

法理論的には、「日本国憲法無効説」が正しいのです。だから、アメリカの占領が解除された当時は、無効説が有力でした。しかし一旦、有効に成立したということになり時間が経過するにつれて、無効説は存在感が薄らいでいきました。

それは、それまでに築き上げてきた生活が突然否定されると、社会に大きなダメージを与えるからです。若いときに強盗をした者が捕まらずに20年経過し、その間に結婚して子供もできたとします。ところが家で家族と夕食を摂っているときに突然警察がやってきて、「お前は20年前に強盗をやったな」と言われて逮捕され、懲役刑になったら、本人はともかく、家族や周囲の人の生活が根底から覆ります。そのために、時効という制度を設けて、強盗の場合は10年間捕まらなかったら、訴追されないことになっています。

憲法は全ての法律の基礎になるので、その憲法が否定されたら現実を規制している法律の根拠がなくなるので、そのような不安定な事態が起きることに不安を感じる人が多くいるのです。もちろん憲法には時効などという制度はありませんが、それと同様の心理が働くのです。

だから、時が経つにつれて、日本国憲法無効説の影がどんどん薄くなっているのです。その一方で、「日本国憲法」が有効に成立しているということを前提として、それを改正することも容易ではありません。

第96条は、改正のためには、衆参両院の総議員の三分の二以上が賛同したうえ、国民投票で過半数を獲得しなければならない、と定めています。これでは容易に改正できないのです。

実際日本国憲法は、75年間の間に一度も改正されていません。

同じ期間にアメリカは27回、ドイツは57回改正しています。それは、両国とも憲法改正の要件が日本国憲法より緩いからです。アメリカは、連邦議会の両院の2/3以上の賛同をえたうえ、10年以内に全州の3/4以上の議会の賛同を得れば改正できます。ドイツは、連邦議会の2/3以上の議員の賛成で改正できます。

要するに、「日本国憲法」は無効であって成立していないにもかかわらず、それがちゃんと成立しているという誤解が蔓延しています。そして有効に成立しているという前提でそれを改正しようとしても、容易にできない、という状態なのです。

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