イスラム教によって中東をまとめることは、できない

「イランがシーア派なのに対して他のイスラム諸国はスンニー派だから、宗派的な対立によってイスラム諸国はまとまらないのだ」という意見がありますが、私はこの意見に賛成しません。

スンニー派とシーア派の教義の主な相違点は、イスラム教指導者(カリフ)の選択方法の違いという人事的な問題であって、その他に大きな教義の違いはありません。イスラム教の宗祖であるマホメット(ムハンマド)はクライシュ族の出身だったので、その後継者の宗教指導者もクライシュ一族の中から選ばれることになりました。

遊牧民社会では、部族長は首長一族の中で実力のある者の中から選ばれるのが一般的です。イスラム教の信者の大部分も遊牧民ですから、この後継者選択方法を認めて、クライシュ一族の中からカリフを選んでいます。これがスンニー派です。

ところが、アリー・イブン・アビー・ターリブの子孫にしかカリフの資格を認めないという宗派がでてきました。これがシーア派です。アリーもクライシュ族の一門で、四代目のカリフに選ばれたのですが、マホメットの娘婿だったのです。シーア派は、カリフの条件としてマホメットとの血のつながりを重視しています。

シーア派は、永いあいだ弱小宗派にしか過ぎなかったのですが、16世紀のイランに建国されたサファビー朝は、シーア派を国教にしました。サファビー朝の版図はイランだけでなく、今のアフガニスタン・パキスタン・イラクの東半分に及んでおり、今のシーア派の分布と一致します。

イラン人(ペルシャ人)は、人種的にはアーリア系で、アラブ人とは違います。また2600年にわたる高度な文化を持ち、アラブ人と一緒にされるのが嫌なのです。そこで微々たる存在だったシーア派を見つけてそれに乗り換え、アラブ人との違いを強調しました。

つまり、スンニー派とシーア派に分かれたことによってイスラム教が分裂したのではなく、アラブ人とは一緒にされたくないイラン人が、わざわざシーア派という弱小分派を選んだのです。イスラム教によって、人種的にも文化的にも雑多な中東を一つにまとめるのは、そもそも無理です。

以下はひと続きのシリーズです。

6月28日 「イラン核合意」は中途半端

6月29日 イランは本気でイスラエルに対抗している

6月30日 イランは、中東のリーダーになろうとしている

7月1日 ユダヤ人もアメリカ人も、同じように、神から約束された地に移住した

7月2日 アメリカの正副大統領は、聖書に書かれていることはすべて本当だ、と信じている

7月3日 中東で大戦争が起き世界を大災害が襲った後神の国が現れる、と多くのアメリカ人が信じている

7月4日 アメリカがイスラエルを支援しているのは、宗教的な理由から

7月5日 イランとアメリカの間を仲介できるのは、日本だけ

7月6日 アメリカとイランの対立は宗教対立である

7月7日 「Bチームが日本のタンカーを攻撃した」という説がある

7月8日 イランの革命防衛隊がタンカーを攻撃した可能性もある

7月9日 イランの安定は、日本にとって非常に重要である

7月10日 ハメネイ師は、安倍総理と今後も話し合いを続けることを望んだ

7月11日 イランとアメリカの主張には、それぞれ弱点がある

7月12日 イスラム教によって中東をまとめることは、できない

7月13日 聖書の預言がいつ起きるのかは、分からない

7月14日 神様を召使いにする考え方

7月15日 アメリカでは、外国人も意見を述べることができる

7月16日 日本もそろそろ他国の世論を誘導する技術を磨いたほうがいい

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