先端技術が海外に流出するのを防ぐためには、もう一つの方法があります。日本の企業が「企業はみんなのもの」という本来の姿に戻り、企業の力を強くして「もの言う株主」のつけ入る隙を作らないことです。
「企業はそこで働くみんなのもの」という日本型と「企業は100%株主の所有物である」という欧米型には、それぞれ一長一短があります。日本型には、「合議制のために意思決定が遅い」とか「年功序列的な要素が残っている」などという非効率の要素があります。その一方で、長期的な視野に立って行動できるというメリットがあります。日本型企業は、「組織は永遠に存続する」という前提でできているからです。
いま日本の企業の元気がないのは、経営者が長期的な視野を持たず、「自分の任期だけ無事に過ごせれば良い」と短期志向になっているのが最大の原因です。どの企業でも外国人株主の割合が増えており、彼らは経営者に対して短期的な利益の増大を要求しています。彼らの要求を無視したら、経営者をクビになります。
東芝の西室社長は、アメリカのGEのウェルチ会長のまねをして、M&A・分社化・事業売却を盛んに行いました。これは、所有者である株主のために企業を物として売り買いするという発想で、欧米型の考え方です。これによって東芝はガタガタになりました。
欧米の企業文化には長い歴史があります。それを発想が全然違う日本企業が手法だけを導入しても、問題を先送りするテクニックを身に着けるだけに終わります。西室社長も粉飾決算を行って、問題を先送りしました。
いま多くの大企業は、中国での事業がうまくいっておらず、将来的にも良い展望を描くことが出来ません。それであれば思い切って撤退するべきなのに、それもしません。それどころか経済団体を通して政治家に圧力をかけて、日本と中国の関係を良好にすることによって自社の中国ビジネスを好転させようとしています。
中国からの撤退は、大変です。他の国での撤退では、資産を売却し負債を払って従業員には退職金を払って解雇すればそれで終わりです。ところが中国ではこのプロセスのすべてにおいて当局からの妨害を受けます。だからすべてを捨て、場合によっては派遣している日本人社員が人質に取られているため、莫大な身代金を払わなければなりません。この処理の過程で莫大な損が生じるので、短期思考の経営者は、決断ができません。
日本の企業が元気を取り戻すには、日本型の経営に戻って長期的は判断をするしかない、と私は考えます。