ハイエクは、脳の働きを研究した

近年、ハイエクの経済理論が注目されています。それは、彼が1974年にノーベル経済学賞を受賞し、またイギリスのサッチャー首相やアメリカのレーガン大統領が彼の理論を基にして国家の経済を立て直したからです。

実は私も、ハイエクの著作を読んでシビレてしまった者の一人です。私は昔から、経済学など役に立たないのではないか、と疑っていました。従来の経済学が、人間を合理的な機械のような存在だと考え、感情過多の非合理的なモノだという実態を認めようとしなかったからです。ところがハイエクは、人間は非合理なモノだ、と認識しているのです。

ハイエクは、オーストリアのウィーンで生まれました。オーストリアは、「懐疑主義」が盛んな国柄です。懐疑主義とは、「今日まで太陽が東から昇ったことは、明日も東から昇る根拠にならない」と考えるような、常識を絶えず疑る態度を言います。このような風土から、「人間の行動の原動力は、性欲だ」などと言いだしたフロイトのような常識破りが現れました。

オーストリアの物理学者であるエルンスト・マッハは、「物理法則は実験的事実を主観的に構成したフィクションにすぎない」と言い出しました。大雑把に言うと、「外界で起きていることの中から、人間は自分にとって意味があると思った現象を勝手に選び出して、自分なりに解釈しているだけだ」と主張しているのです。

ハイエクもマッハの学説に影響を受けて、「人間が外界で起きたと思っていることは、自分の頭の中で組み立てたフィクションに過ぎない」と考えました。そのようなフィクションを前提として国家が市場経済に介入しても失敗するだけだ、と考えました。

このようなことから、ハイエクは国家が市場経済に介入する社会主義に絶対反対なのです。つまり彼の業績は、「人間が頭で考えていることはフィクションだ」という心理学説を唱えたことと、「社会主義経済はうまく行くはずがない。自由主義経済に限る」という経済理論を作ったことの二つがあります。

ハイエクは、大学に行くときに心理学を勉強しようと思ったぐらい、心理学に関心がありました。長い間、人間の脳の働きを研究して最後には心理学・脳科学の本まで出してしまいました『感覚秩序』(1952年出版)。この内容は最新の脳科学の研究成果に近く、脳科学学会も彼の説に関心を寄せています。