今から、ハイエクが書いた『感覚秩序』の内容を説明していきます。この本は200ページぐらいでさして厚くはないのですが、何しろ難解で、私は読み通すまで2週間もかかり最後には頭が痛くなってきました。
できるだけ分かりやすい説明をしたいので、ハイエクが自説を導き出した細かいプロセスなどは省き、私なりに大事だと思った部分だけを説明します。
われわれ人間は、これまでの経験から、外界に存在する物をすでに分類しています。経験の中には自分が生まれてから経験した後天的なものもあるし、先祖から遺伝子などを通じて伝わったものもあります。
それがどういう物かを分類していると同時に、それを見たり聞いたりして湧き上がってくる感情も同時に持っています。例えば、人がヘビを見たら、「これはヘビだ」という分類が頭の中に出来ているので、すぐにヘビだと分かります。それと同時に多くの人はヘビに対する恐怖の感情が甦ってきます。ヘビが怖いという感情は、われわれが先祖から受け継いできたもののようです。
われわれ人間が持っている「物を分類する能力」は、非常に高度な能力のようです。われわれは、どんな猫でも見たらすぐに「猫だ」と分かります。AI業界はコンピュータに、人間並みの分類能力を持たせようとしていますが、まだうまく行っていません。
この分類能力を古代ギリシャ人も不思議に思ったらしく、プラトンは『イデア論』に書いています。プラトンは輪廻転生を信じていて、人間はこの世に生まれる前はあの世に住んでいたと考えました。あの世には、あらゆる物のイデア(元型)があると考えました。
猫のイデア、犬のイデア、机のイデアなどあらゆる物の元型があるのです。この世に生まれた人間は、あの世で見たイデアの記憶が残っているので、猫を見たら猫のイデアと符合する部分があるので、「あれは猫だ」と分類できるわけです。
要するに、我々人間は白紙の状態で外界に対峙しているわけではなく、すでに分類の体系を頭の中に備えているのです。