議会で社会主義を行うのは、無理

「科学者には、自由主義を軽蔑し社会主義を支持する者が多い」とハイエクは書いています。社会主義は、特定の社会的な目標に向かって、社会全体の資源を集中します。科学者も目標がはっきりしているので、社会主義的なやり方を好みます。実際、目標がはっきりしている場合、資源を集中できる社会主義の方が、自由主義よりも効率が良いです。

目標は、「公共の利益」とか「社会主義国家の建設」などというあいまいなものであってはならず、はっきりしていなければなりません。ところが人により、教育・インフラ整備・老人福祉・軍事力強化などのニーズのどれを優先すべきかの判断が異なります。

そこで自由主義は、「国家は、建国時の理念を遂行するためにある。それ以外には特別の目標を持たず、必要最小限のことしかしない。あとは各人が悪いこと以外は、好きにやれ」として、様々にあるニーズの優先順位を決めることをできるだけ避けてきました。国がやるべき最低限のことを決めるのが議会なのです。

このような自由主義の社会が変化して、「何が正しいかは国家が決める」という社会主義の考え方になると、議会が様々なニーズ間の優先順位を決めなくてはならなくなります。しかし、優先順位は人によって異なるので、議会は決めることができません。結局、議会制民主主義が機能しなくなり、国民は有能な統率者を求めるようになり、独裁者が現れます。第一次世界大戦に負けたドイツがその典型です。

敗戦後のドイツで学者たちが集まって、自由主義的な理想を網羅したワイマール憲法を作りました。あらゆる政策を議会で「民主的」に決めようと考えたのです。

敗戦国のドイツは、領土問題・賠償問題・再軍備など国家が解決すべき重要な課題が山積していました。だから議会はそれらを処理するだけで精一杯のはずです。ところがドイツ人たちは、経済問題など市場に任すべき問題まで議会で優先順位をつけて決めようとしました。ドイツの伝統文化には、「国家が、何が正しいかを決める」という社会主義的な傾向がありました。だから市場経済分野まで議会に決めさせようと考えたのです。

ところが市場経済分野に関して議会は意見が割れてその優先順位を決められませんでした。その結果、政府は国民の信用を失いました。社会主義的な経済政策を議会制民主主義で行おうという無理をしたのです。その結果ワイマール体制が崩壊し、ヒトラーが出てきました。

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