近年、ハイエクの経済理論が注目されている

20世紀に入って、「物の価値は買い手の主観で決まる」(効用価値説)という前提が主流になりました。それでマルクス主義経済学以外の近代経済学は一つにまとまるのかと思ったら、そうはなりませんでした。

ケインズが出てきて、政府が公共投資をして景気を下支えしなければならない、という社会主義経済を主張しはじめたからです。「自由主義経済か、ケインズの主張する社会主義経済か」、の論争は、自由主義経済理論が勝ちました。

「物の価値は買い手の主観で決まる」という前提で、自由主義経済を主張している学説を「新古典派経済学」と言っています。アダム・スミスやリカルドなどの古典派経済学者は、「労働価値説」を前提として自由主義経済を唱えているので、同じ自由主義経済でも、物の価値に対する考え方が違います。だから、「新」をつけたのでしょう。

新古典派経済学が主流の時代になっても、経済学は一つにまとまりませんでした。従来の経済学の前提となる「人間はこういうものだ」という考え方に、異論を唱える学者が現れたからです。

従来の経済学者は、マルクス経済学者もケインズも、新古典派経済学者も、「人間は金太郎飴だ」と考えていました。つまり、経済活動をする人間は、同じ目的を持ち、同じ情報を同時に入手しているという前提で、経済理論を組み立てていました。

ところが、フリードリッヒ・アウグスト・フォン・ハイエク(1893年~1992年)は、人間は金太郎飴ではない、と主張しました。彼は、オーストリアの貴族に生まれ、敗戦によって国の経済がメチャクチャになったのを経験しました。1931年にイギリスのロンドン大学の教授となり、1938年にイギリスに帰化しました。

彼は国家が市場経済に介入する社会主義(ソ連のマルクス系社会主義及びナチスの国家社会主義)に反対し、徹底的な自由主義経済を主張したため、「右翼」だと思われ、彼の学説は永い間無視されていました。

ところがイギリスのサッチャー首相やアメリカのレーガン大統領がハイエクの学説を基に国の経済を立て直し、またハイエクは1974年にノーベル経済学賞を受賞しました。そのために最近は、ハイエクの経済理論は新古典派経済学とは別の有力な理論だ、とまで評価されています。

コメント

  1. ソフィア より:

    楽しみに読ませて貰ってますが、
    現実的な話、スティグリッツやクルーグマンのような、現代を代表すると思われる経済学者はむしろケインズ経済学の支持者なので「経済学論争は自由主義経済理論の勝利だった」と言うのはちょっと一方的な見方かなと思います。