『昭和天皇独白録』を一読して、私は昭和天皇が非常に聡明な方だと感じました。また「パリ講和会議で人種差別撤廃案を提案したことが大東亜戦争の原因だ」と喝破されていたことを知って、非常に鋭い方だな、とも思いました。
もう一つ、『昭和天皇独白録』を読んで、昭和天皇は政治的な問題についてご自分の意見を大臣や重臣たちに積極的に述べておられる、とも感じました。大臣や重臣たちも昭和天皇の言われることに必ずしも従うわけではなく、拒否したこともありました。
余談ですが、昭和天皇は一部の重臣に対してかなり厳しい評価をしておられます。松岡洋右は外務大臣を務め、日独伊三国同盟を締結させました。昭和天皇は彼のことを、「彼は他人の立てた計画には常に反対する、また条約などは破棄しても別段苦にしない。特別な性格を持ってゐる」と仰っています。
また宇垣一成(陸軍大将)を、「彼は返事があいまいで人を誤解させるから、このような人を総理大臣にしてはならない」と評されています。
昭和天皇は大臣の言うことにそのまま承認なさるのではなく、ご自分の意見をはっきりと伝えられていらっしゃいますが、これは私にとって意外でした。
大日本帝国憲法は、天皇陛下が大臣を任命すると規定しています。しかし、大正時代には議会で多数を占めた政党が大臣を出すという政党政治が確立し、このやり方が「憲政の常道」になりました。
憲法は、紙に書かれた内容がすべてではなく慣習も憲法の一部になります。大正時代には政党内閣制が「憲政の常道」として国民の常識になったので、これも戦前の憲法体制の一部になっていたと理解できます。
「大正時代以後は、国民により選挙で選ばれた政党大臣を出し政治を行っていたので、天皇陛下は政治に一切口を出されなかった」と私は学校で教わりました。しかし『昭和天皇独白録』を読むと、昭和天皇はけっこう政治的な発言をされています。